-人間が集団で生きていく上で避けて通れない問題を扱っている-演出・西本由香インタビュー

こんにちは!!
研修科2年、池亀瑠真です。
いつも研修科の応援ありがとうございます。
研修科では、体調管理、消毒、換気を徹底し第二回の発表会を行いました。
それに伴って演出家インタビューをお届けします!
演出・西本由香さんからどんなお話が伺えたのか…!
それでは、どうぞ〜!!
(演出・西本由香)


①戯曲選びと自粛期間


―まず初めに、『るつぼ』を選んだ理由を教えてください。


西本:今の状況がそのまま重なるわけじゃないけど、ウイルスに対しての意識に、それぞれ価値観の違いや意見の対立があるのも分かる。
だけど「自分は死にたくない」というそれぞれの自衛の意識と正義感が、集団になったときに非常に危ない動き方をするなと
ウイルスが顕在化させた、今の社会状況の問題というものはこれからもなくならないし、今見えるようになっただけ。
るつぼが書かれた赤狩りの時代も、題材になってる魔女狩りの時代もそう。
そういう意味で、人間が集団で生きていく上で絶対に避けては通れない問題を扱っていると思った。
今回、新型コロナウイルスは演目を選ぶ上で一つのきっかけにはなったけれど、個人を自由にさせない集団の力学というものはずっと避けられない問題だと思うんですよね。
だけど、人間は社会的な生き物だから集団なしには生きていけない。
そう考えてみると、今後もあり続ける問題、課題を扱った本だなと思い選びました。

―なるほど。

コロナ禍を経て、演劇に対する意識や考え方などに変化はありましたか?


西本:映像配信を見続ける根気がないということに気がついて。(笑)
数か月ぶりに稽古場に行った時、
「あれ、演劇楽しいじゃん」って改めて向き合うことができた……。
原点回帰みたいな(笑)

―あはは笑


西本:リモート演劇とか最近出てきてて、「リモート演劇とは……?」となるじゃないですか。
でも、これで演劇の定義を考え直すことになりましたね。
リモート演劇を「演劇といえない」で終わらせてもいいんだけど、何が足りないのかなっていうことをちょっと考えて。
リモートでのライブ配信”と、”キャンプファイヤーで無言で何もしないけど何人かが集まって、炎が消えるまで見て帰る”っていう行為とだったら少なくとも私は後者(キャンプファイヤー)の方が演劇的だと思うんですよ。
演劇の面白さを見出してる人は”キャンプファイヤー”の方が演劇的だよねって共有出来ると思うんだけど、演劇に関わっていない人はなんで”キャンプファイヤー”の方が演劇的なのかということを説明しても分からないと思ったんです。やっぱり体験してみないと分かんないんじゃないかなと。


②演出側から見た景色


―演出する上で、大切にしてるところを教えてください。


西本:瞬間とか、現場で起こっていることを大事に、それをもっと面白くするにはどうしたらいいのかを考えるようにしてます。
自分で考えたことにはやっぱり限界があるので、知らないものとか、自分自身の想像の幅を広げるためにも他の部分から出てきたものを利用して、思いもかけなかったものを探すっていう。予め分かっているところにはめ込んでいくと、ちょっと小さくなってしまう。……というか、「あんまり上手くいかないんじゃないかな……」という感じがしてきちゃうんですよ。
「ちょっと足りないな」、「退屈だな」って思ったことはいつでもなるべく信じるようにしています。

―西本さんが役者に求めるものや、キャスティングの意図はありますか?


西本: ”この人がやったことない役だろうな”ということもあるし、”比較的得意なんじゃないかな”という役をキャスティングすることもあります。ケースバイケースですね。 
俳優の仕事は、宮本研の作品に出てくる「(舞台上で)賭けるんです!自分を!張るんです!体を!」という言葉に集約されていると思います。
作品自体のメッセージが伝わるようにということも大事ですが、基本的には舞台の上にいる人間が、”どういうものをみせてくれるか”と”どういう状態であるか”といった『瞬間瞬間の面白さ』をいつでも求めています。

―瞬間瞬間の面白さ……!

それは極端な話、芝居をしているうちに“台本の流れからずれていってしまう時”も「どうぞ、ずれてください」と思うものなのでしょうか……?


西本: ずれた先に何が見つかるかにもよりますが、基本的にとにかく面白くなればいいと思っています。
”決められたセリフ”と、”決められた流れ”と、”役者個人の衝動や情動が拮抗している状態”、そのせめぎあいも面白さのひとつだと思うので。
舞台にいる時は、相手役に迷惑がかかるからセリフも段取りも覚えていないといけない。当然、台本の約束通りに話が進んで行くけど、その約束をほぼ忘れた状態で、相手とのコミュニケーションに集中しないといけない。
……にもかかわらず、それを俯瞰していないといけないという様々な制約と拮抗がある。全て含めての『エンターテインメント』だと思っています。

―『るつぼ』は、文化も違えば、宗教も絡んでいて、解釈が難しと感じているのですが、”海外戯曲“で意識して演出しているところを教えてください。

 
西本:海外戯曲は、”セリフが異物”という前提でつくっていく。日本の戯曲のセリフも異物ですが、日本人の思考回路で書かれているからまだ飲み込みやすい。
セリフを使って、相手とどうコミュニケーションを取るか。
その言葉で相手を脅しているのか、説得しているのか、挑発しているのか等、海外戯曲の方がより一層、動機づけにより演劇的筋力が要ると感じます。

―今回、私達に分かりやすいようにテキストレジをしてくださった印象があるのですが、それは相手とコミュニケーションをとる上で、違和感がないよう意識されたのですか?

 
西本:そうですね。
どうしたら舞台の上でのやりとりが生き生きするかなということを探ってコツコツ手を入れました。
 

―ありがとうございます。

3月アトリエの会で演出をされていましたが、演出していて思う座員と研修科生の違いなどを教えてください。

 
西本:やっぱり先輩(座員)は距離の取り方、視線、手の捌き方、歩き方とかの選択肢、引き出しが多い。そしてその中から選ぶ意思が強いなと思いますね。
選んだ表現が明快だから、演出側としても「今回選んで出てきたその表現じゃなくて、今回はこっちでいきませんか?」っていう話がしやすいというか。個人差は否めないけどね。
あとブレス。セリフを喋る時にその息をどこで使うか、どこで吸うかの組み立て方が明快って感じがする。

ーありがとうございました!




インタビュー:研修科メディア係
テープ起こし:池亀瑠真・甲斐巴菜子・北川莉那・森寧々
記事構成:池亀瑠真
写真:森寧々

※このインタビューは2020年8月29日に行いました。

※この記事はインタビューを元に再編成したものです。




【発表会における新型コロナウイルス感染予防対策について】

発表会実施にあたり、政府や東京都の方針を踏まえた新型コロナウイルス感染予防、拡大防止への対応策として、客席数を大幅に制限することとなりました。
また研究所の発表会やカリキュラムにおいて研究生の安全と実習機会の確保を考慮した結果、事態の収束が見込まれるまでは発表会の一般予約を受け付けず、関係者のみの対応とさせていただきます。何卒ご了承ください。再び皆様にご来場いただける日まで、感染予防対策を続けてまいります。 今後の状況次第では変更、中止を余儀なくされる可能性もございます。
研究所発表会を楽しみにされていた皆様には改めてお詫び申し上げます。
文学座HPより


■研修科卒業発表会


『萩家の三姉妹』

作:永井 愛 
演出:松本祐子
日程:2021年1月21日(木)~24日(日) 予定
場所:文学座アトリエ

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