―言葉の集積が、俳優を強くしていく―演出家・高橋正徳インタビュー

こんにちは!研修科1年生の今野美彩貴です。

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今回は、研修科59期卒業発表会『三人姉妹』の演出を務める高橋正徳さんのインタビューをお届けします!

稽古の進捗状況や、2015年に初めて『三人姉妹』を演出されたときのことなどたくさんの貴重なお話を聞かせていただきました!

当日のパンフレットに掲載されている高橋さんのコメントと共にお楽しみいただけたらと思います!

(演出:高橋正徳


1.『三人姉妹』稽古の様子、進め方について


―稽古が始まり2週間ほど経ちますが、進捗状況などいかがでしょうか。


高橋:どうなんでしょうか?(笑)。結構丁寧にやることはやっています。チェーホフの言葉に慣れるまで、最初はちょっと大変でした。今日、Aチームが4幕のラストシーンまであたって、明日はBチームが4幕を稽古する予定です。A・Bと2チームあるけど、2回目にやるチームの方がシーンの方向性やミザンス(動線)などがすでについているから、次のチームは、ちょっとバージョンアップしてシーンを掘り下げていく。それをまた、見ていたチームがやっての繰り返しです。2巡目になればもう少しテンポアップしてできるし、より時間をかけて掘り下げていくといった、しばらくはそれの繰り返しです。

稽古の最初は、僕の演出が初めての人もいるし、やっぱり本科の時のアプローチより突っ込んだ芝居作りをしているから苦労しているところもあったと思います。高橋ってちょっと面白いおじさんだと思いきや、なんかアレ?みたいなこともあったと思うけど、随分皆慣れてきてるんじゃないかな。


―稽古の進め方について


高橋:最初にやったチームで大枠を作っておいて、見ているチームが何となく動きとか、やっていることを理解した上でとりあえずやってみて、もうちょっと掘り下げてみた第2弾に入ってみる。本当はシングルキャストで第2弾、第3弾とやっていければいいんだけどさ。もう少し稽古を進めていければ、枝分かれしていくし、それぞれのチームの良さや、悪さ(笑)が出てくると思います。それがABそれぞれの『三人姉妹』の色彩というか味わいになればいいなと。あとシングルキャストでやっている人たちがハブ(中心)というか、アンカーになって、AチームBチームを支えてくれたらいいかな。

(『三人姉妹』稽古中の様子)


2.研究所発表会のキャスティングについて


―今回キャスティングされるにあたって、ダブルキャストの役者のタイプが全然違いますが(笑)、あえてそういった面白さを狙っているんですか?


高橋:キャスティングって、ただこの役者がこの役に合ってるってだけで決めるわけではないんです。いろんなバランス、いろんな要素でしていくんだよね。研修科の発表会だから、出たいって言っている研修生はなるだけ多く出てもらいたいし。作品があって、この中でパズルみたいのがあって……だからそこは出演者全員のことも考えるし、作品のことも考えるし、あとはバランス?例えば「姉妹に見えないよね?」とかさ。なんとなく姉妹に見えた方がいいのか?悪いのか?例えばシーンスタディだったら、ただその役を勉強としてやらせるんだったらいいんだけど、上演を考えると一応三姉妹に見えた方がいいかなって。見えると言うのは、単純な外見だけでなく、その役者の持ってる個性とかエネルギーとか居住まいだったりするんだけど……例えば今回で言うとイリーナやってる子はマーシャもできて、マーシャやってる子はイリーナもオリガも両方いけなくもない。じゃあ今オリガやってる子だってちょっと年齢が上のチームだったらイリーナになる可能性があるっていうか。だけどこの中で考えなくちゃいけないし。あとは、三人姉妹に対してナターシャはどう異物感があるかとかさ。ナターシャやってる2人だって三人姉妹でいいわけだし。そういうのが難しい。


―特に卒業発表会だと、勉強というよりは見せられるように?


高橋:そうね。本科から3年間ここで演劇してきて、やっぱりその役者の良さが出るような役っていう方がいいんじゃないかな。やっぱり卒業公演は2年生中心だし、その中で魅力的に見えるとか、「三人姉妹」の中で挑戦しつつ、どう変化していくかって事に興味があります。それをどう作品として昇華していくかって事かな。


―演出家の皆さんから見ても試しにこの役やらせてみたら結構いけるじゃないかみたいな発見とかあったりしますか?


高橋:あるある。稽古やってるとその役になってくるっていうか、逆に言うと、さっきのオリガとイリーナの話あったけど、逆の配役だったらそれはそれで、ひと月稽古してるとなんとなく馴染んでくるんだよね。不思議なもんで、本科の時なんか研究生の年齢はバラつきがあって、なんでこの子が?とかさ、若い子が『女の一生』(研究所本科第2回発表会)の5幕けいとかやってたりするじゃない?でも稽古していくと、やっぱりちゃんと5幕けいに見えてくるし(笑)。文学座の良さって、いろんな演出家がいるから、いろんな眼差しや言葉がある。考え方の根っこの部分は共有してるのに、演出家はそれぞれの言い方で伝えてたりする。同時にそれぞれ大事にしているものがまた別にあったりするから、本科の入所式のときに言うんだけど、小林勝也さんに怒られて勝也さんにこうやれって言われてさ、やったら別の演出家の稽古で怒られるとか(笑)。高橋にいいって言われてやったら松本祐子さんに怒られるとかさ、その繰り返し? 結果いろんな言葉があって、それぞれ毎回考えなくちゃいけないし、その言葉の集積が、俳優を強くしていくっていうか、育てていくみたいなのが文学座的やり方だと僕は思ってる。例えば今回高橋の現場であんまり言われてないからってさ、それはもしかしたらフィーリングがあったのかもしれない、その役者が次の現場に行った時に、すごい怒られるかも知れないし(笑)。またその子だって作品が『三人姉妹』じゃなかったらもうちょっと苦労するかも知れないし。やっぱり演劇にはいろんな言葉があるから、ひとつの言葉にとらわれすぎない方がいいと思うよ。

3.『三人姉妹』(2015年研修科卒業発表会)との違いについて


―52期、53期研修科の『三人姉妹』との違いなどありましたら、教えていただきたいです。


高橋:永宝千晶たちが2年生で、池田倫太朗たちが1年生の?


―はい、作品のテイストも若干違うと思いまして。


高橋:まず、1年生の池田倫太朗くん達は、本科の時からよく知ってたんだよね。本科で『わが町』と卒業公演の演出を担当したので全員知ってた。『わが町』(研究所本科第1回発表会)が夜間部で卒公が昼間部を担当したので1年生は良く知ってたんだけど、永宝さんの期は、僕がちょうど文化庁の留学でイタリア行ってた時に本科とか研修科で、ほとんど関わらずに研修科の卒公だけ担当する事になった。発表会は何回か観てたりはしたけど、具体的にどういう人達か知らなかった。で「はじめまして」から始めて。

あと今回使ってる台本のテキレジは、前回の時の物を元にしているんだけど、小田島雄志さんの翻訳を、文学座の過去の『三人姉妹』の上演台本や、神西清さんや安達紀子さんの翻訳、あとは英語訳なんかを頼りにさらに直したりカットしたりしたので、その作業に時間かかった。家で直してくるんだけど、実際稽古場で読み合わせして自分たちの言葉で喋るにはどうすればいいか、あとそもそもこの台詞は何を言ってるんだ?みたいなね(笑)


―それが高橋さんの初めての『三人姉妹』?


高橋:初めてのチェーホフでした。。


―アンドレーがパーカーを着たりしてましたね。


高橋:何でだろうね?(笑)。「三人姉妹」「チェーホフ」って響きからくるありがたい感じ?の作品にはしたくなかった。ドレスを着てやるっていうのも良く分からないし、それを観て何が面白いのかさっぱり分からないし。ただ超不倫したり、引き籠もったりしていて凄く現代に通じる部分があって、それなのに100年後、1000年後の話をしている壮大さ?射程の広さに面白さを感じて、出演者自分たちの物語にしたかったんだと思う。読めば読むほど現代的な物語というか、家族の問題や男女間の問題とか色んな事があって、そこにナターシャみたいな女性がやってきて、どんどん家を乗っ取られていくとかあのトゥーゼンバッハだって、ただの坊っちゃんが「さぁ働かなくちゃー」ってごちゃごちゃ言ってるし、ちょっとストーカーっぽいソリョーヌイがいたりとか、凄いよね。俺好きだったんだよね(笑)。あと時代の過渡期の中で人はどういう風に生き、変わっていくのかとかね。で話を戻すと(笑)、52期の連中は卒公だったていうのもあってハングリーだったから、ギラギラしてたところはある。1年生はワイワイしてた。

あと、7、8年前僕ももっと若かったから、感覚が今よりは研修生に近かったというか、もうちょっとお兄さん感あって。当時30代半ばぐらいだったし。でも今回やってみて、僕自身が歳をとり、当時分からなかった事を発見したり、気付いたりしたことがかなりある。この辺の考え方が甘かったなぁと思うところも凄くある。そりゃあ初演の良さもあるけど、やっぱり上演を重ねていく良さもあるんだなぁと感じた。前は新しい作品やるべきだなと思っていた時もあるんだけど、『わが町』を何年か担当して、その時にやっぱり『わが町』を何回か演出すると、やればやるほど色んな発見があるんだよね。そういう経験をすると、強度の強い作品を何回かやってくっていうのは自分の中でも大事だなと思っている。あと『三人姉妹』は芝居についてとか演技について考えさせられると言うか、考える事をしいられる作品だと思う。我々が作ろうとしている現代演劇とか演技について考えなくちゃいけない。答えになってないけど(笑)、前回の『三人姉妹』と比べてどうですかっていう意味でいうと、それぞれの良さがあるし、それぞれの足りないところもあるしっていう感じ。


―高橋さん自身も変わりましたか?


高橋:歳をとった(笑)。

僕自身も過去の幻影を追わないようにしようとはしてる。と言うかあまり覚えてない(笑)。

あとは逆にいうと元カノの事は忘れてっていうぐらい私たちの期の方が良いでしょっていうアピールをして欲しい!!

 

4.文学座に入ったきっかけ


―文学座に入る前からお芝居はされていたんですか?


高橋:高校時代に演劇部に入って、大学でも学生演劇をやって、自分たちで劇団を作ったりもしたけど、このままではプロにはなれないなと思って。あと、日芸とか桐朋とかで演劇の教育とかを受けたことがなくて、見様見まねで芝居を作ってたので。そもそもプロの役者とか、演出家にも会ったことがなかったし、どういう風に芝居作りをしてるか知らないから、とりあえず1年間でも学んでみたかった。畳の上でお茶を飲みながら芝居するってよくわかんないみたいなさ。昔の小劇場は前向いて喋ればいいみたいな、アングラの後にやってきた80年代小劇場ブームの名残みたいな感じでやってたから(笑)、90年代の終わりだったけどね。


―その風潮の中で文学座を選んだ理由は何ですか?


高橋:いわゆるリアルな芝居、大声を出さないで芝居するというのはどうやって作るのか知れそうだった(笑)あとプロの演出家っぽい人がたくさんいるっぽいし(笑)。作品も翻訳劇から『女の一生』まで、別役実、つかこうへい、清水邦夫、平田オリザとか、その時代その時代の新しい作家も沢山やっているし、着物を着てお茶飲むみたいな芝居もやっているし、それってどうやって作るのかみたいな事を学べたらいいなと思った。学ぶというか、その片鱗を知りたかった。


5.59期へメッセージ


―最後に、今回卒業する59期へメッセージをお願いします!


高橋:稽古の段階でいうとまだまだ序盤で、これから中盤に入っていくんだけど、どれだけ三人姉妹の世界、解像度も密度も高いもの、皆がいるからこそできる三人姉妹を作っていきたい。唯一無二のものを目指すことが大事だと思うし、そういうことが出来る仲間だと思っているので、頑張りましょう。


―ありがとうございました!

(『三人姉妹』出演者たちとの集合写真)


聞き手、文字起こし:研修科メディア係、60期研修科

写真:村田詩織

記事構成:今野美彩貴


※このインタビューは12月20日に行いました。本記事はインタビューをもとに再構成したものです。

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