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2022年度第 2 回研修科発表会『キル』の演出を務める小林勝也さんと研修科生による座談会を前編、後編に分けてお届けします。
ー野田さんの作品は出ないとね、なかなか分からないー演出家・小林勝也、研修科生座談会(前編)に引き続き、今回は後編をお届けいたします。
どうぞお楽しみください!
■メンバー紹介
演出家:小林勝也
③小林勝也さんの演出について
―――最後に、勝也さんの演出はいかがでしょうか。どう感じていますか?
小林:席外そうか?
一同:(笑い)
田尻:そんな悪いこと言いませんよ(笑)
私は、小林勝也さん演出は今回で3回目(『十二夜』本科60期生卒業発表会、『痕跡(あとあと)』2021年度第3回研修科発表会)で、やっと勝也さんの言っていることを共有できているっていうか。やってる側からすると、こう動いてっていうのが自分のことに精一杯になっていると分からないんだけど、その動いた位置から周りを見回していると、誰もかぶってないっていうか、 みんなすごい良い位置に立っているなって気づくことがあって。それが1~2年目。
今回に関しては、自分が一番目立つところっていうのも大事だけど、私がここで下がったらお客さんの目が、上奥から下前に移動してこの人がいちばん映えるなとか、逆に私がこっちに動いたらいちばんお客さんの目がいってるのは私だなとか、そういう戯曲と自分の立ち位置を総合的に落ち着いて考えながら動けるようなったなっていう。
三年間の体験を経て、お客さんが今いちばん見たいのは、台本で喋ってるのはこいつだけど、ここで聞いてる人の方が見たいんじゃないかとか、戯曲を読んでいるだけじゃ分かんないことがやってみて分かるようになったなっていう。それこそ本科の時の「居ればいい」がやっとわかってきたなっていう。居ればいいっていうか、いるだけでこの舞台が成立してる。誰もただいるだけになってない。それこそ一枚の絵画の登場人物として、その絵の役割を担ってるなっていう感覚。
だから、野田さん作品はセリフや役名が無いアンサンブルの人とか多いけど、そういう人たちがちゃんと舞台で役割を持って居れるっていうのは、役者の立ち位置とか楽しんでやれているかとか…そういうことを私は三年間で学べたなという。
(稽古風景)
稲葉:稽古場でね、太田(佳佑)が溶けるシーンの時に、勝也さんが「絵が崩れる」って言ったの。
俺、コロナ前まで美術館に行ったりしていて。例えば人がいっぱいいる絵だとさ、全部の視線とかに意味があったりして、それが演劇と結構重なっているよなって思って。
実際に自分が勝也さんに立ち位置のこととかで言われると、勝也さんはやっぱり絵を意識してやってるんだろうなって考えるんだけど。結髪の子供が生まれた時のリアクションで言われたことがあったんだけど。その時に、絵を崩さないように、生きた結髪、生きた人間としてどう絵のところに行くか。それが難しいけど面白いんだよなって。
(稽古風景)
田尻:みんなが面白いことしてたらつまんなくなっちゃうなって。
稲葉:面白いこと?
田尻:なんていうの、面白くしようっていう気持ちでいるとつまんない。
稲葉:あぁそうね。
田尻:面白くさせようって言うか、一枚の絵を面白くしようっていう気持ちじゃないと絵が崩れるじゃないけど…どこを見たらいいんだって迷子にならなくて済むよね、みたいな感じは見ていて思う。
だから私は、自分がやっている時よりもみんながやっている時を見て、勝也さんが色々言っている時の方が楽しいんだよね。
小林:ドラクロワの絵だって誰かが変なことしてたら、絵全体が崩れる。あれをキープしながら移動するっていうのはほんとに難しいと言えば難しい。
田尻:動く絵って面白いですよね。できたら。
(稽古風景)
小林:あれがあのまんまほんとに動いて行ったら、それなりに感動するじゃないですか。
あとはその、居るって事なんだけど、例えば、自分の家ってどうしてでも居られるじゃない。お客さんとしてほかの家に行ったとき、居心地すごく悪くて、居心地のいいところを探すじゃないですか。とりあえずここら辺に座って…ど真ん中にドーンと立つ訳にはいかないからね。
僕も言われたことあります昔。居ればいい。居られればいい。
田尻:居られればいい?
小林:居られればいい。例えば旅館なんかに行くと、最初こういう旅館なんだと思って、お風呂どこにあるんだろ?とかすると落ち着くじゃない。そういう感覚だって俺は教わった。
居られて、伝えられればいい。セリフじゃなくて伝えればいいの、相手に。自分の言いたいことを伝えればいい。だからよく僕は、感情的に自分の悩みや苦しみや悲しみを出すなと。それやるともう自己満足になっちゃう。すごく難しいことで。
典型的な例として、どんなに親しい人が死んでも、葬式の時は儀式という中にいるじゃない。終わって家に帰れば、号泣するかもしれないし、ご飯も食べるし…だけどそれは、ただリラックスすればいいんだというのとまた違うんだよね。
舞台で楽になるって、楽になろうと思ったって楽になれっこないわけでね。だけど自分の家で緊張するってことあんまりないじゃないですか。
田尻:そうですね。誰かよそ者が入ってこない限り。
小林:入ってこない限り。
あとはなんかある?瑛司(笑)
山下:僕はそうですね、『痕跡(あとあと)』は本科生の時お客さんとして観ていて。自分が役者として勝也さん演出の作品に出演させてもらうのは初めてなんですけども、外から見ても中から見ても、お客さんに優しい演出なのかなっていう。変に分かりにくくしないというか、わかりやすく面白いっていう。
いろんな舞台とか見てると、いい意味でお客さんの解釈に委ねるとかもあると思うんですけど、あまりにも演出が身勝手な感じで突き放してる感じに見えたりもしたり…
僕は演劇を大学の演劇サークルから始めた人間なので、演劇をそれまで全く見てなくて。なんで演劇サークルに入ったかというと、初めて見た舞台が面白くて何をしているかが分かりやすくて。それが僕の原点というか王道というのがあったので、お客さんに優しくどういうストーリーか、どこがどう面白いかっていうのを、お客さんとして『痕跡』を見ても思いましたし、自分がいま中に入っていても、わかりやすく面白いっていうのは大事にされてる気がします。
あと、さっきの話に関連しますけど、文学座に入って本科の時から、音を変えろとか言われるんですけど、結局、何がセリフを言う時に大事なのかは、言葉を相手にどう伝えるかっていうことに限るかなって。これまで音を変えろっていうことに僕はピンと来てなくて正直。音楽をやってるわけでもないし…あ、結果的に音が変わるっていうのは分かるんですけど。
だから、相手に集中して、言葉を大事にして、自分がどう思ってるのかを伝えろっていうのが、自分の中で確信が持てたのは良かったですね。
小林:演出家にとっては、絶対的な言い方がある。そういうのはね、面白かったんだけど。音変えろって言ったって、「え、じゃあ一オクターブ上げればいいの?」とかさ。ただ、意識的に音を変えたことによって、ちょっと開けてくることもないことではない。
僕なんかも役者だから、自分で喋ってみると自分は分かってくる。セリフを見て、そこは、俺だったらこう言うなとか、ここで切るなとか、ここで繋げるなとか。まあそれを演出してるわけだな。だから俺、自分でやっちゃうじゃないですか。それはね、欠陥でもあるし、でも手っ取り早いかなと思って、こういうやり方もあるよということで時々やっちゃう。
うん。まあ、そんなことも勘弁して下さい。
一同:(笑い)
(稽古風景)
稲葉:勝也さんがたしか、『痕跡(あとあと)』の演出の時に、音楽から決めるって仰ったんですけど、今回も音楽から決めたんですか?
小林:うん。決めた。もちろん、(音響の)原島正治さんとだよ。原島さんと、大体一ヶ月前に落ち合って。まず原島さんから、(候補が)来るんですよ、稽古前に。それで、CDで全部聞いて。原島さんとの仕事で、これやめようよっていうのはほとんどない。
『痕跡(あとあと)』も稽古前に全部(決めた)。
稲葉:僕、演出家のことが分からないんですけど、音楽から決めるというのは面白いなあと思って。勝也さんは、お芝居の中での音楽ってどれくらい重要だとかってありますか。
小林:ものすごく重要。重要だし好きだね。まず、曲とか音で、その場のイメージを持ってほしいと。やっぱり、音は一番盛り上がるっていうかね。へへへ(笑)
田尻:そうだ。私、最初に『キル』読んだ時に、オーケストラか絵巻物というイメージで、それから音楽を聞いて、物凄くイメージが湧きました。
―――以上です。ありがとうございました!
(座談会の様子)
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