『これは白い山でなく』演出家鵜澤秀行インタビュー
「最初は穏やかだった読み合わせもどんどんヒートアップしていき、『もっと語尾を(相手に)かけろ!』『(台詞の音が)上がっていかないんだけど!』と台詞に対する鵜澤さんの怒号が飛び始めます。」
「鵜澤さんの強い言葉の裏には、いつでも私たちに対する期待や愛がこめられています。(中略)今回はじめて稽古を外から眺めてみて、鵜澤さんの稽古場にはたくさんの愛が詰まっているんだなぁと感じました。」
と、突然引用から始めましたが、これらは稽古場レポートで平体まひろが書いた『これは白い山でなく』の稽古の様子です。
「溢れる愛」と「怒鳴り声」。今回の発表会の演出を務める鵜澤秀行さんを表すキーワードといえば、この2つになるでしょうか。
愛の人、鵜澤秀行。今回の演出家インタビューでは、作品選びのポイントと見どころ、研修科生たちに期待することについて聞きました。
1.今回の作品について。私たちにしかできない脚本を。
↑演出の鵜澤秀行(左)と演出助手の研修科2年・谷こころ(右)
Q.今回この脚本を選んだ理由を教えてください。
一番は、役同士のコミュニケーションを大事にして欲しいと思ったからだよね。
この脚本は本の流れを丁寧に追っていくようなものではなく、役者の気持ちが飛んだり跳ねたりするための材料みたいなものだから。
僕は、演劇は「瞬間瞬間を生きるためのもの」だと考えてる。
当然客に見られてはいるけれど、(客に)見せるっていう意識をいったん取り払って、関係の中に役同士が生きる。君たちにはそこのところに集中してほしい。
Q.最初の稽古で、登場人物と私たちの年齢が近い、ということもおっしゃっていました。
うん。今回の劇は役と君たち(研修科生)の年代が近いから登場人物と本人たちの経験が重なりやすい。
だから、自分達が実際の人生を生きている中で感じる不満や欲求を投影させられると思うんだ。そうして生身の研修科生と役がスパークする、そんな瞬間を見たいね。
それに、この劇は年を取ってしまったらできない劇だと思う。
Q.年をとるとできないというのはどういうことでしょうか。
年をとったら感性が変わっちゃうだろう。
若いっていうのは何だろう、例えば終盤のシーンの長ゼリフ(※編集部注:ネタバレになるので詳細は伏せます。本番後に完全版を掲載しますのでお楽しみに。)に出てくるような純な感性って失われちゃうんだよな。そういう意味で、若い人がやってこそ活きる脚本って言えるんじゃないか。
2.ディスコミュニケーションの時代に、コミュニケーションを見つめ直す。
↑研修科生を見つめる姿。
Q.現在本番直前ですが、研修科生に期待することは何でしょうか。
とにかく「言葉」を大事にしてほしいね。
くだらないセリフ、悪ふざけみたいなセリフも多いけど、どんなセリフも相手役にしっかり届かなきゃいけないし、何を言おうとしているのかっていうことも客席に伝わらなくちゃいけない。
ただただ、目の前の相手としっかりコミュニケーションを取ってほしい。
Q.現代はディスコミュニケーションの時代と言われますね。
そう。今、日本語は乱れてるよね。それに「誰に何を言っているか」ということが日常生活の中ですごくいい加減になっていると思う。
まさに、ディスコミュニケーション、なんてさ。そういう時代に生きている若い君たちがコミュニケーションとどう向き合ってくれるのか期待してます。
劇中の、一見しょーもないような会話から君たちが何を表現できるか。その人間がどういう考え方をしてるのかっていうことをしっかり理解してほしいと思うんだ。
それは芝居の役作りと同じで、「ここに書かれていることはこういうことなんじゃないか」とか「この人物はこういう生き様だからこういう言葉を吐くんだ」とかそういうことにつながっていくんじゃないかと思うんだな。
3.哲学からワイセツまで、人間の持つ両面性が面白い。
↑演出家の机。なんだか人情味を感じます。
Q.この劇の見どころを教えてください。
くだらない奴ら、くだらない会話って思っていたところから、ふっと裏側に抱えていた孤独感とか、寂しさとか、自然に対する見方、若い感性みたいなものが浮かび上がってくる、そういう飛躍を大切にしたいね。あ、若者ってこんなこと考えるんだなって。
その振り幅がこの作品の面白さだと思うんだ。人間の両面が浮かび上がってくるっていうか。
Q.人間の両面、というのはどういうことでしょうか。
この脚本を読んで稽古を見て、あらためて人間って結局一人で生まれて一人で死んでくんだなあと思った。悲しい存在だなって、孤独だなあって。なまじ知恵があるだけにね。
普通の動物って本能のままに生きりゃ良いんだけどさ。人間っていろんなこと考えずにはいられないんだよね。
どんな人間でも、それこそ形而上学的っていうかな、哲学みたいなの持ってたりするじゃんかさ。たとえば落語の八つぁん熊さんにしても、バカなことをやってる一面と、なんだか哲学を感じるような一面があったりするわけじゃんか。
つまり両面、凄く難しいことから、凄く下賎な卑猥なことまで幅がある。君たちには、これを理解してしっかりやってほしい。バカみたいに下品な歌うたってた奴がさ、あるすごい孤独を裏側にもってたり、そういう世界をこの本は書いてるんだと思うんだ。
とにかく、その幅を思いきって演じればいい。だからぺたーっとしちゃだめなんだ。日常的なところで納めないで、違うなんかがあるぞって。そういう何かをもって稽古してほしいなって。
※本記事はインタビューを元に再構成したものです。聞き手:染谷知里
0コメント