【稽古見学7日目 ——4月26日 立ち稽古・台本2周目】
この日稽古場に入ると、空気が前回(立ち稽古2日目)とは大違いでした。なんだか重い、不機嫌さを孕んだような空気で満ちていたのです。
稽古をみていると、複数人のシーンでも全くお互いの関係性が見えず、芝居が次へ次へと進んでいかないような印象を受けました。
本人たちも何か噛み合っていない感覚を抱きながら演技しているのが客席にも伝わってきます。客席で稽古を見ている研修科生たちも、前回と比べると覇気がありません。
稽古終わりに鵜澤さんから全体へ、
「なんだかすごくバラバラしているな。(関係や台詞が)ブチッブチッて切れちゃってるんだよね。こんなに繋がらない稽古場ははじめてだ」
という厳しい言葉が。
それに対して重々しくうなずく研修科生もチラホラ。研修科生各々がその言葉を反芻したり反省したりしている中、この日の稽古は少し重い雰囲気の中終わりました。
なかだるみ、というと少し違う気がしますが、「中行き詰まり」を起こしている印象を受けた今回。
できていないことが分かっているのに、どうすればいいのかが見えてこない悔しさに、稽古後舞台裏で涙を流す研修科生も見受けられました。
この状態を研修科生たちはどう乗り越え、本番に向けてどう変わって(変えて)いくのでしょうか。
今回出演しない私はただ見ていることしかできませんが、自分だったらどうするだろう、と考えながらこの日は稽古場を後にしました。
【稽古見学8日目 5月3日 初通し稽古】
前回稽古場を見学してから1週間。前回の空気があまりいいものではなかっただけに、個人的には稽古場に入ることすらとても緊張していました。
(↑Bチーム稽古・ダメ出し中のAチーム出演者陣)
この日は初めての通し稽古(作品を初めから最後まで、止めずに通してみる稽古)。研修科生たちも少し緊張しているようでした。
いざ始まってみると、作品がどう流れていくのかまだイメージしきれていなかったのか、シーン稽古との違いに戸惑いを感じている様子が見受けられました。
一方で、相手とのやりとりを丁寧に確認しながら挑んでいる姿も見られ、戸惑いながらもなんとか大きな流れを作っていこうと努力しているのが伝わってきます。
通し後、鵜澤さんからは
「台詞を追うことで精一杯になってしまっている。言葉に囚われずに気持ちで前に進めて行けるといい。
みんな自分の役をイメージできているのは伝わってくるんだけど、辿りきれていないから上手くいっていない。」
というダメ出しが。
研修科生たちも思い当たる節があるようで、納得しながら鵜澤さんの話を聞いていました。
(↑ダメ出しを行う演出家・鵜澤秀行。)
しかし、稽古場全体の空気は前回と比べるとずっと引き締まっていたように思います。
稽古後しばらく残っていると、「初めて~だと気づいた」「こう思っていたけどああした方がしっくりくる気がする」「やりたいことが全然うまくいかない」など、いつもより活発な研修科生のやり取りが聞こえて来ました。
やはり通し稽古だからこそ得られる気付きがあったようです。私も作品が立ち上がっていく最初の段階を覗き見ることができた気がしました。
【稽古見学10日目 5月13日 通し稽古】
AB両チームを1日でどちらも通す稽古が始まって5日。2年・別府憂生の言葉を借りれば、稽古も「佳境of佳境」。
明日のオフを挟めば、次の日からは段取り稽古(照明や音響の当たりを決めながら進める稽古。)・ゲネプロ(音響・照明・衣装メイクなども有りで、本番と全く同様の流れで行う稽古。リハーサル。)・本番。つまり今日は最後の通し稽古の日です。
「最後だぞ!」という意気込み・気合もあるのか、稽古前の声出しから伝わってくるエネルギー量が前回とは比べ物になりません。
前回は緊張している様子もありましたが、今回は何かが吹っ切れて、ただ目の前の通し稽古に挑もうとしている純粋な姿勢が感じられました。
(↑休憩中も話し合う2年・阿部大介とランディ・ジャクソン。今回ふたりはダブルキャストで同じ役を演じます。)
いざ、最後の通し稽古開始。
テンポよく元気に、次々とシーンが運ばれていきます。役同士の関係も前回よりずっとリアルに浮かび上がってきて、前回と見応えがまるで違いました。途中で大きな台詞ミスがあり流れが悪くなってしまうこともありましたが、鵜澤さんがおっしゃっていた「役と役者の実感」を感じられる瞬間もチラホラとありました。
中行き詰まりを起こしていると感じた日からのこの変化。
稽古の合間の短い時間を縫って何度も鵜澤さんに相談しに行ったり、相手役とたくさん話し合ったり稽古したりする研修科生の姿を度々見てきました。自分一人でもたくさんのことを考えながら作ってきたはずです。
“役と自分との間”の、“相手役と自分との間”の、“台本・演出家と自分との間”の違和感や分からない部分を、そんな誠実な努力で埋めていく。
分からない部分が埋まっていないことがバラバラの原因でもあったし、改善するにはただそうやって埋めていくしか方法はなかったのかもしれません。
畢竟それしかないという、考えてみればごく当たり前だけれど、とても根源的で重要なこと。
そして、「分からない」と役者が感じていることは、すべて観客にも伝わってきて、誤魔化すことができないということ。
今回はじめて外から稽古場を眺めていて、あらためてそこに気づくことができました。
(↑1年・喜田裕也。「役そのものが抱えるその負荷をもっと抱え込めたら、鵜澤さんの言う“若者の鬱屈”を表現できる気がする。」と語っていました。)
急激に面白くなった通し稽古を見て、明日のオフを挟んだその先にも明るい兆しを見た気がしました。
残り少ない稽古期間ではありますが、1秒も止まらない進化を信じて、私は私なりの公演サポートに尽力しようと思います!
文・写真:研修科1年 平体まひろ
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