本記事は、次回発表会『見よ、飛行機の高く飛べるを』をより楽しく、わかりやすく鑑賞していただくためのお役立ちコラムです。
明治末期の女学校を舞台とする本作、現代の感覚ではちょっとわかりにくい劇中の世界観について、研修科1年の喜田・小谷・平体が時に真面目に、時に愉快にご紹介します。
鑑賞前に、または鑑賞後の復習に、どうぞご活用ください!
今回は本作のキーワードとなる『青鞜』について紹介します。
喜田の描いた平塚らいてうの肖像画とともにお楽しみください。(編集部より)
そもそも、『青鞜』ってなに?
↑平塚らいてう① ここからだんだん進化していきます。
誰もがその名を聞いたことがあるであろう『青鞜』。
一言で説明すれば、1911年(今回の『見よ、飛行機の高く飛べるを』の舞台となっている年です。)に中野初子、保持研子、木内錠子、平塚明子(当時26。平塚らいてうのこと。)、物集和子の5名が発起人として発刊した雑誌です。
女性の権利が制限されていた時代に、家制度への反対を表明し、女性の才能を発揮する場を提供することを掲げた『青鞜』は、今なお女性解放運動のさきがけとしてシンボリックな存在になっています。
『青鞜』が発刊された明治末期は富国強兵の思想のもと、家父長制が社会の基盤として受け入れられていった時代であり、女性がこのような雑誌を発刊することは大きな批判を覚悟する必要のあることだったのです。(※)
創刊号にある「青踏は、女子のために、各自天賦の才能を十全に発揮せしむる為に、自己を解放せんとする最終の目的のもとに相手携して、大いに修養研究し、其結果を発表する機関としたい。」という記述からは並々ならぬ覚悟が感じられます。
※実際、『青鞜』および『青鞜』が生み出した「新しい女」は批判を受けましたが、一方で支持者も多かったことが知られています。
日本女性史の樹立者であり、らいてうの友人だった高群逸枝はらいてふの刊行の辞を「まさに日本における『女権の宣言』の第一声」、「解放のあけぼの」と絶賛しました。
また、各文学紙や、新聞から
「編集や表紙画に至るまで女の手に依りしものとせば感嘆すべし女流の為めよき味方出来たりというべく有為なる発達切望す」(『秋田魁新報』)、
「平塚明子を中心とせる雑誌『青鞜』の発行ハ、伝うべき現象の一」(『万朝報』)、
「聞けば今度婦人のみから成り立つ文学雑誌が出るという。それがただ男のやる所を女がやったというだけなら、別に変わったこともあるまいが、其の文学というのが直ちに彼等の痛切な人生であり、自覚であり、ここに本当の婦人の声を挙げた婦人の雑誌が出るというのなら、注目に価する」(『読売新聞』)
という評価を受けるなど、『青鞜』発刊時のジャーナリズムはむしろ好意的でした。
『青鞜』創刊号の内容
↑平塚らいてう② やや写実的になってきました。
「原始女性は太陽であった」という一節を聞いたことはありませんか?
これは平塚らいてうが『青鞜』発刊に際して書いた刊行の辞の冒頭です。
教科書にも載っており、小説やドラマでも引用されることが多いのでご存じの方も多いかと思います。
けれど、その他に収録されているもの、となると答えられる人は少ないのではないでしょうか。
『青鞜』はもともと「女流文学者を養成する目的」を持った金葉会から始まった雑誌。
小説・俳句・詩・戯曲・翻訳に至るまで文芸に関するありとあらゆる内容が収録されていました。
創刊号では前述の刊行の辞の他、与謝野晶子による「そぞろごと」、田村とし子の「生血」などが有名です。
『青鞜』と「あの戯曲」との意外な関係
↑平塚らいてう③ もはや写真のようですが、手書きです。
実は『青鞜』は、あの有名な戯曲とも深い関わりがあります。
それは、『人形の家』。
1879年ヘンリック・イプセンによって書かれた戯曲で、弁護士の妻ノラが、夫に言えない秘密を抱え、その秘密が明らかになったとき、個人としての意志をもち、ノラが自ら家を出るお話です。(『人形の家』については前回のコラムでもご紹介しています。)
坪内逍遙の率いる文芸協会がイプセンの「人形の家」を演じたのは『青踏』の創刊とおなじ1911年9月。
11月に再演されると、広く議論を呼んだのですが、主人公ノラは新しい女の代名詞と化して青踏社員に結びつけられていったのです。
『青踏』側もそれを意識してか「付録ノラ」を企画し、第二巻第一号に「社員の批評及感想」と銘打って参考文献などを読み漁った社員たちの感想が掲載されました。
ほかにもバーナード・ショーの評論「人形の家」の訳、ノラを演じた松井須磨子談なども並べ、国内国外の舞台写真も掲げるなど、かなりのページ数を割いた特集が組まれました。
いかがでしたでしょうか。
『青鞜』は今回の作品に関わる重要なキーワードのひとつ。一体どのような形で劇中に登場するのかお楽しみに!
文・イラスト:研修科1年 喜田裕也
0コメント