卒業インタビュー『三文オペラ』に向けて#2

今回は卒業発表会を間近に控えた研修科二年生(61期)のインタビュー第2弾です。
「メッキース(B)役、成田裕生」「ジェニー(B)役、加藤楓優香」「ピーチャム(B)役、室園元」「演出部、岩佐美紀」にお話を伺いました。


(上段左:成田裕生、上段右:室園元、下段左:加藤楓優香、下段左:岩佐美紀


①自身の役について

―卒業発表会『三文オペラ』の作品や自身の役についての印象を教えて下さい。


加藤:私の役(ジェニー)は古女房的な感じなのかなって、メッキースの。女性陣の中で一番長い付き合いで、元カノの貫禄みたいなものがある人を想像してます。娼婦っていうのが難しくて、あんまりそういう色気がある役をやってこなかったので、どうやったらエロくできるかなって試行錯誤してます(笑)メッキースに対する矛盾した気持]がうまく表現できたらいいなと思っています。


室園:ピーチャムは、まずイメージとしてはなんか...働き者。口で言ってるだけじゃなくて、ちゃんと行動しないとなんにもならんぞっていうことを体現してるやつなのかなって思ってますね。その人の解釈次第でどんなキャラにもなるのでどうしようかなって感じですね...。僕、私小説っていうのを書いてたんですよ。自分自身の体験をもとにして文章を書くっていう。だから僕の芝居って今まで、自分ごとな芝居が多いなって。どうせなら最後ロマン溢れる感じになりたいなって思ってるかな(笑)


加藤:狂言回しみたいな役だよね。


室園:そうなのかな。いやなんかね、必死すぎてわかんなくなっちゃうんだよね。


一同:(笑い)


室園:あんだけ気をつけてたのに「役、役!」ってなりすぎると役が壁というか終着点みたいに見えてきて。だから、ピーチャムとはなるべくいい距離感で付き合っていきたいなって、最後だしね。

室園元


成田:メッキ―スは、まず、長い。セリフが。(笑)


一同:(笑い)


成田:俺自身今まで脇役が多かったから、読み稽古の段階でセリフを覚えられることが多くて。こんな大きな役をできるのは新鮮だなって思いながらやらせてもらってる。役の性格とかについてはまだまだこれから探っていきたいなって思ってて。だから、現段階で言えることとしては「浮気はするなよ...!」って。真に思います。それぐらいです。


一同:(笑い)


木下(62期):岩佐さん(演出部)はどうですか、三文オペラを61期でやるというのは?


岩佐:ブレヒトは嫌いじゃないんだけど、「ガリレイの生涯」とか「アルトロ・ウィの興隆」とか「三文オペラ」も、あらすじ読むと好きだけど戯曲を読んでみると思ってたのと違うっていうすれ違いが一番多い作家でして。だから最初に三文オペラって聞いた時にすっごいショックで。


一同:(笑い)


岩佐:歌で魅せなきゃいけないオペラ的な要素あるし、なんでそれを文学座の研究所の卒公でやるのって。


成田:確かに確かに。


岩佐:え、なんで?三文オペラ?え?って三度聞きみたいな(笑)個人的にやりたいなって思ってたやつがあったりとかしたから、一・二ヶ月くらい受け入れられなくて。でも、読み合わせの日に同期の声で全部聞いて、面白いかもなって思えてからは、叙事的演劇って前提を盾にできることの幅が広がる作品だなと思っています。「女の一生」だと「けい」や「栄二」である説得力でお客さんを物語に引き込むっていう感覚が強いんですけど、今稽古見てると室園くんとピーチャムが肩組んでる、共存!みたいな(笑)


一同:すごい。


岩佐:成ちゃん(成田)とメッキースが二人三脚で一緒に焦ってる様ににみえたりもするから、本番がすごい楽しみです。


② 文学座との出会い

―文学座を選んだ理由について教えて下さい。


成田:結構真面目な話になるんやけど、俺は小学校から高校までずっと野球をやっててすごい自信があるものだった。高校は特待で入ることができてここで野球頑張るぞって入ったら、まあ運が悪いことに高校の先輩と先生からいじめを受けて、それでがっくりと俺は自信をなくしてしまって学校に行かなくなって野球もやめて、病院に通うようになったの。で、そうなってくると、なんか普通じゃないなって、自分が普通とかけ離れてしまったなみたいな、 今までできてたこともできなくなっちゃったしぽっきり自信を失っちゃった。その時に、映画とか見まくって音楽とかも聞きまくって小説も読みまくってて、 なんか自信つけたいなって思ってすぐにアルバイト始めてお金貯めて18歳で上京した。フリーで役者やってて、ある人との出会いがきっかけである団体でやらせてもらった時に、そこに文学座の卒業した先輩とかもいらっしゃったっていうのももちろんあるんだけど、いろんな話聞いて。で、その人からも文学座を勧められて、じゃあ文学座行こうと思って入ったの。80年以上続いてる劇団っていうのは間違いないから、そこで本物の芸術っていうのが学べるんじゃないかなっていうのはすごいあって。文学座に入れば俺は認めてもらえるんじゃないかなって思ったの。なんか、「文学座にいるんだ、すごいね」って言ってもらえるんじゃないかなと思って、入りたいなって思って。で2019年だか20年だかの松本祐子さんが演出した研修科57期卒業公演の『かもめ』を見に行ってその時に、「文学座入るのやめよう」って(笑)


一同:ええ!?


成田:思いっきり自信を失った(笑)無理無理、こんな人たちと同じ舞台に立つことができないなって思って1年寝かせて、なんかもう精神も病んでさ。でもなんかうろちょろしてるのはよくないなって、思いきって文学座入ろうって61期の試験を受けたと、そういった経緯があります。本物を学びたいなって、自信つけたいな、 なんか誰かから認められたりとか、普通になりたいなって思ったのが1番だった。ま、普通って聞いたら、こんなことやってる時点で普通じゃないって思うかもしれないですけど、でも俺の普通ってもっと高いところにあるっていうか、なんか自分の理想が普通だって思ってるから、そこを目指して芝居だけで食えるようになったら幸せな家庭築けるなとか、ペットが飼えるなとか、美味しいご飯食べれるなみたいな、そこに繋がっていくので、俺は俺が思う普通を目指して文学座に来ました。

成田裕生


加藤:私は小さい頃から舞台が好きで、ていうか演劇とかお芝居が好きで学芸会とかで率先して手を上げるタイプでした。お芝居がとにかく好きで見るのも好きだしやるのも好きで、なんか漠然と小さい頃から舞台の方に進みたいなっていうのはあったんですけど。小学校4年生の時かな、地元が札幌なんですけど劇団四季の『ライオンキング』の子役のオーディションがあって、私歌もダンスも全然できないのにとにかく出てみたくて応募したけど書類で落ちて。あと『北のカナリアたち』っていう映画の子役も募集があったけどそれも応募して落ちて。で、まー向いてないのかなって。そもそも一次試験も通らなかったので一旦諦めてたんですけど、 小中高とずっと仲良くしていた幼馴染の子がいて、その子に高校で演劇を一緒にやらないかって誘われて高校の演劇部に入ったら、そこで再燃してしまって。それまで図書館司書とかをやろうと思ってたのが一気に、やっぱり役者やりたい、舞台やりたい、演劇やりたいっていう風になってガラッと進路が変わったのが1番大きいです。私の部活が大道具小道具と演者が分かれてないやつで自分たちで大道具も小道具も作るし、音響機材もいじるし照明とかも全部やってた。演出をやってる先生ともいるんですけど、なんだったら演出を生徒が担当することもあるところだったので、みんなで作り上げてく芸術っていうので演劇がすごい好きで、お芝居やっていくのに映像とか色々あるんですけど、みんなでそういう土台から作っていくのが好きだったので、劇団っていうのをどうしても選びたくて。で、私立の大学とかも色々あったんですけど進学は一瞬考えてやめて。狭き門っていうのもあるから演劇系の学校に進んだところでそこから先に絶対に進めるっていう保証もないから、だったら最初から劇団に入ってお芝居の勉強がしたいなと思って。いくつか劇団を調べて、お金が特別余裕があるわけではなかったのでリーズナブルな文学座と新国立を受けたんですけど、新国立の方は最終で落ちて文学座は受かって。尊敬している樹木希林さんが卒業をしているところっていうのもあって、文学座を選びました。


室園:えーっと、文学座を選んだきっかけですよね。SNSで流れて来たからです。


一同:(笑い)


室園:いや、もう本当にこれだけなんです。


木下(62期):それまで演劇はやってたんですか?


室園:やってないんですよ。えーっと、僕日芸の文芸学科で小説とか詩を書いて勉強してて、途中にコロナが来たじゃないですか。僕、その時ちょうど4年生に上がる時だったんですけどコロナが来たおかげで緊急事態宣言が発令されてみんな家に閉じこもったでしょ。未知のウイルスだって毎日ニュースで流れて、ああ、俺本当にこれ世界終わるんじゃないかなって思った。本当にみんな外に出てないし、スーパーではトイレットペーパーとかも全部品薄になってるし、僕も本当に自粛したのね。家で1ヶ月間ずっと自粛して、だけど公園には出ていいみたいな言ってたから公園に行くでしょ。それで氷川台の城北中央公園でランニングしてたんだけど今まで見たことないぐらい賑やかだったの。こういうのが逆に怖くて、ターミネーター2って皆さん見たことない?ターミネーター2で、主人公のジョン・コナーのお母さんサラ・コナーの夢の中でフェンス越しにめちゃくちゃ楽しく子供たちが公園で遊んでいる。それがすっごい美しい光景なんだけど、その向こうの方で核爆発が起こってその人たちが全員焼けて死ぬっていうシーンがあるんですよ。で、その人たちが焼けているのを見てうわーって苦しむシーンがあったんだけど、その子供たちがめちゃくちゃ楽しそうに遊んでるシーンとマジで被ったの。本当に怖くて、あ、世界やばって。どうしようと思って。で、そこらへんからちょっと僕、徐々に現実の肌触りみたいな、手触りみたいなものをなんとなく感じるようになってきて。コロナのおかげだね、絶対。 で、学校も混乱してて先生たちがちゃんと授業回せなくなっちゃってて、僕そこで1年間休学しようって決めたの。これは今思えば現実逃避なんだよね。それでこの間に映画と小説をひたすら摂取しまくろうと思った。俺さ、これで何かが変わると思ったんだよね。そしたら何も変わんなかった。


一同:(笑い)


室園:つまりインプットするだけだと行き詰まりになるんだよね。結局何も変わらないって。何もなかったの。どんだけ読んでもどんだけ見ても、あ、世界ってまじで変わらないんだって思って。あ、これは世界が変わるんじゃなくて俺が変わんないとダメだってなった時にどうしようと思って何か生まれ変わりたいってなるよね。それで僕人生の要所要所にちょっと演劇やる機会が何回かあって。って言っても学芸会とか高校の文化祭とかでやったみたいな、それで大学に日芸演劇学科とかもあるからそのノリでポチっと。入所試験の作文であなたが人生で1番影響を受けた作品なんですか、みたいな題で小津安二郎の『お茶漬けの味』って映画を書いた。それはちょうど自粛期間中に見てその映画にめちゃくちゃ精神的に救われちゃってさ、それ書いたら通った。まぁその時のノリです(笑)


岩佐:私は文学座に来る前はドラマの裏方をやっていて、ドラマってリハーサルやってテストやって本番やって次、みたいな。スケジュールがタイトで忙しい。だから、今のセリフの「はい」の言い方違くないか?って心の中では思っていても、そんなことを話し合うゆとりも時間も残念ながら、ない。ドラマが好きだったが故にそれでいいんだろうか?って思いが強くなって。でも中にはリハーサル1発目から面白い芝居する役者さんもいるわけですよ。そういう人たちはどうやら舞台出身の役者さんだと。これは舞台に秘密があるに違いない!と演劇を始めました。そしたらいつの間にか戯曲がすごい好きになっちゃって。それこそ1年でやめようかなぐらいなつもりで研究所に来たんですけど、気づいたら3年間ここにいます(笑)

岩佐美紀


③三年間の思い出や印象に残っている事を教えてください。


岩佐:演出部としての思い出で言うと、研究所の発表会で生田(みゆき)さん・稲葉(賀恵)さん・西本(由香)さんの演出助手を経験できたこと。(松本)祐子さんの稽古場に少し参加できたこと。あと旅公演の時、五戸(真理枝)さんにスペイン料理をご馳走になったことですね。それぞれに熱くて面白くて、めちゃくちゃタフだし、意味わからないくらい大きなエネルギーをお持ちで、今現在もとても勉強になっています。61期の思い出としては、もう今かな。というのは、卒公の演出が西本さんっていうのも大きくて、西本さんの演出助手をするの4回目なんですよ、3年間で。 めっちゃやってるの(笑)特に一番最初が本科の卒公だったから、今『三文オペラ』の稽古の時に『お気に召すまま』がフラッシュバックしてきて…


成田:めっちゃわかる。


岩佐:昨日とか、野村(珠々)さんと清水(芽依)さんと成ちゃんの6景、大爆発しちゃった回。この3人って、あんまり MAXで初っ端なから来ないタイプというか、ちょっと出し惜しみするタイプなんですよね。だから、本科卒公とかも、もうちょっとなんかないのってもどかしかったのに、昨日はいきなりドーンってやったから、なんか感動しちゃって、成長してる!って。いや、それが良いか悪いかはさておきだよ。


成田:いや、全く違うって言われた。


一同:(笑い)


岩佐:でも、あれぐらいやっちゃうと、何が違くて何がいいかっていうのが、演出家がジャッジしやすいから、いいんじゃないかなって、私は思う。だから、すごい感動して、今3年間を非常に感じています。


一同:いい話(笑)


室園:僕は総じて言うと、みんなとの交流なんですよね。どれか1つをピックアップすることができないっていうのがすごいあるかな。この質問難しすぎて。文学座の思い出って、総じて思い出じゃねえかと。


一同:かっこいい


室園:いやいや(笑)この稽古場のさ、切磋琢磨してる瞬間もそうだしさ、それって例えば、プライベートで誰かと飯食いに行った時とか、ダメだった時に、今日一緒にご飯食べに行こうよって言ってラーメン食べた時とか、LINE送ってくれたこととか、そういう一瞬一瞬が積み重なってるから、どれかをピックアップするのが難しい。


加藤:私は本科の時に、みんな終電とかあるのに夜稽古が終わって遅い時間に山本ビルの下で雨の中みんなで傘さしてずっと喋っていたのとか、あと四谷三丁目から新宿まで歩いて帰ったりとか。稽古場での話もそうだけど、そういう帰り道での話が思い出に残ってるかな。他愛のない話をしてた気がするんだけど、『女の一生』でめちゃくちゃ絞られた話とか、 みんなで泣いてね。1幕で成ちゃんと兄弟役だったりしたんだけど、作品やるごとに、同じ幕のメンバーでLINEグループができたりして、それがまだ残ってて。ピクニックを計画してくれたりとか。みんなで代々木公園で読み合わせして、真っ暗になってくみたいな。そうやってたのが懐かしいな。研修科に上がってからは先輩との絡みが多くて、実はあんまり同期と共演できてなくて寂しいんですけど、先輩と色々話せたのが面白くて、『三人姉妹』にも1人だけ1年生の女子で参加させてもらえたりとか、色々な人と交流させてもらえたのが思い出です。

加藤楓優香


成田:俺もお三方と一緒で、マジで今が思い出だなっていうのはすごい感じてて。3年間の思い出?どうしようみたいな(笑)1番悩んだ質問で。舞台のことって言っても俺ずっとふざけてるだけだしな。


一同:(笑い)


成田:でも考えてみた時にやっぱり稽古期間中とか本番までの間って毎日顔合わせるじゃないですか。多ければ週7、少なくとも週5とか。毎日顔合わせる。学校やんこれ、みたいな。感覚的にはね。俺、高校にほぼ行けてないから失われた青春があるわけ。俺はここで補完してるの。青春を。本当にありがたいな。それこそ稽古が終わった後にご飯行ったりとかさ、休日なんか会わなくてもいいのにわざわざLINEして遊ぼうぜって遊んだりとか。もうそういったことが本当に俺にとってはすごい新鮮で、最初で最後の同級生みたいな感覚でいるの。だからマジで今が思い出です。


④最後に62期へメッセージをお願いします。


成田:まず自分を知ってもらうことと相手を知ることが演劇において一番重要だと思っていて。日常の関係値って舞台上ですごい出るなって3年間ですごい感じてて。それこそ昨日の稽古で、のむさん(野村珠々)とめいちゃん(清水芽依)との三人の掛け合いも1発目であれだけバンって出せたのも3年間の積み重ねがあったからだなって。お互いがどういうことを考えてるかを知ってるからこそ出せたことだなって。あ、ここ乗っかれる!っていうのが舞台上で判断できた。だから相手を知ることって大事だなって思います。そりゃ3年間一緒にいたら嫌いなところもでてくると思うけど、そこでも知ろうとすることをやめちゃうと関係が切れちゃう。だから、どっかで繋ぎ止めて信じられる何かを一つ作っておくことが大事。相手を否定すると関係がそこで終わっちゃうから、否定せずに相手を受け入れる。日常生活から相手を知ること、受け入れること、信じることが大切だと思います。


加藤:演劇は楽しんだもの勝ちだと思っています。役作りとかで壁にぶち当たることもあると思うけど、一番楽しむことを大事にしてください。苦しくなったら演劇から距離を置くこともありだと思うので、無理せず心身共に健康で頑張ってください。


室園:今最近僕が思っていることを言うので、勝手に各々で受け取って欲しいなと思うんだけど。「期待をするな、信じろ」っていうのが俺の中であって。これは大学くらいから考えていることなんだけど、人とか世界に期待してる時って何か見返りを求めている状態だと思って。例えば誰かに期待していると、それが叶わなかった時に勝手に自分が裏切られたと感じることがあると思う。でも、信じるっていうのは一方的に思っていることだから、それって結局「祈り」と同じ事だと思う。最近世の中のことを悪く言っている事が多いなと感じる。もちろん愚痴とか吐き出す瞬間は必要だけどね!そういう時間も大事。でも、世の中のことを悪く言ってるだけじゃなくて世界に祈っていて欲しいなと思います。


岩佐:もう感謝しかないですね。特に演出部のみんなには 今年1年間かなり助けてもらいまして。もう居てくれるだけで力が湧いてくる。言葉にすると気持ち悪いくらい感謝してます(笑)1年間ありがとうございました!


62期一同:ありがとうございました!


インタビュー:浴聖太

写真:木下綾夏

文字起こし:62期研修科

記事編成:木下綾夏高澤知里

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