61期卒業公演『三文オペラ』演出家・西本由香インタビュー

いつも研修科を応援いただきありがとうございます。今回は61期卒業発表会『三文オペラ』の演出を務める西本 由香さんのインタビューをお届けします。どうぞお楽しみください。

(演出:西本由香


——まず、三文オペラを選んだ理由をお聞かせください。


卒業公演ということで、今まで積み重ねてきたものや、それぞれの個性が見えるものがいいなと。あんな要素が欲しい、こんな要素が欲しいとか色々考えるんだけど、全部を備え合わせた台本はなかなか見つからない。稽古の最初の頃にも言ったけど、私は卒業公演を縮こまった芝居にしたくない思いがあって。今自分には技術的にあれができるこれができるというような"評価"ということより、これから先10年20年と表現を続けていくことを考えた時に、舞台の上で自分がどう存在できるか。それぞれが表現者として自分の軸みたいなものをどう保っていくのか。そういったものが求められる演目がいいんじゃないかと思い、これを選びました。

そして、この作品はあんまり予算も潤沢にあってあれもこれもできるという環境でやるよりも、不足している部分から湧き上がってくる方がいいんじゃないかと。どこか現状に不満を持っている人がやった方がいい演目だと思う。そういう意味では皆さんが1年生も2年生も、自分自身の現状に対してとか演劇の現状というものに対して不満を持っていると思うので。というか不満は持っていて欲しいんだけど(笑)むしろ不満ありませんって言われたら「えーー」って感じなんですけど(笑)持っててって話なんで(笑)


一同:(笑い)


そういうフラストレーションとか不満みたいなものが現状を変えていくエネルギーだと思うので、そういうものが活かせる演目だと思って選んだというのもあります。


——歌がいっぱいあると思うのですが、そこは懸念材料にならなかったのでしょうか?


いやもう懸念材料ですよね(笑)


一同:(笑い)


バチバチの懸念材料ですよ(笑)

でもまあ頑張るみたいな(笑)

なんとかするみたいな(笑)


一同:(笑い)


でもまあ、よりよく歌うとかも必要だけれど、芝居の中に歌を入れるということは、歌っている時の状態と演技をしている時の状態が変わるわけじゃないですか。その刺激っていうのが、ブレヒトがこの作品を作るうえで必要だと。そういうある種のギアチェンジっていうのがどう自分たちに作用していくのか、お客さんとの関係の中で作用していくのかっていうことに自覚的にならざるを得ないと思うんですね。途中で歌が入ると。もちろん歌自体が上手い下手も大事だけど、演じるっていうことについてどう自分達が自覚的になっていくかっていうことの一つの要素として歌がある。そのことの効果っていうのを感じて欲しいですね。


—— 61期の発表会は、昼間部は『わが町』、夜間部は『お気に召すまま』で演出をされていましたが、61期について3年間の印象など聞かせてください。


今回、発表会に演出でかかわるのは『お気に召すまま』以来なのかな。2年ぶりになります。舞台監督とかでは関わっていたんですけど。単純に色々成長したなと思うことはありますし、あるエネルギーみたいなものをちゃんとキープして3年間を走り抜けている感じがします。それは結構稀有なことなんじゃないかなあと。中弛みがないわけでもなかったと思うんだけれども、高い温度を保って臨んでいるので心強いなという感じですね。


——色々な方にインタビューしていると、研究生全体の特徴として「おとなしすぎる」とおっしゃる方が多い印象なのですが、61期の皆さんは本科生の頃からみていてどうですか?


でも、比較的うるさいというか…(笑)


一同:笑い


うるさいほうなんじゃないかなという気はします。健全な意見交換もほどほどにある感じがするし。もっと主張してくれればいいのにと思うような、引っ込んでいることへのフラストレーションはあまりない印象ですね…。うん…。そんなことないかな?


一同:笑い


比較的、協調性を大事にしすぎないというか、ちゃんとガチャガチャしているという気がします。61期生は本科の頃がコロナ禍の2年目で、打ち上げもない、稽古後飲みに行くみたいなこともできない、そういう流れが定着している状態で3年間過ごした期。“上演中止”と常に隣り合わせみたいな状態の中で、それをどういうふうに乗り越えていくか、どういうふうに続けていくか。そういう状態が非日常というより、そういう状態が基本という中でやってきた期です。だから、時代だけれども、飲み会とか稽古外の時間以外でどうやってコミュニケーションをとっていくかというやり方もぼちぼち見つけていき始めた期なんじゃないかな。


——演出家をしていてよかったと思う瞬間があれば教えてください。


やっぱりこう、あるブレイクスルーみたいな時があったというか。稽古の中で、こっちが色んな言葉を選んで「例えばこういことがあるんじゃないか」とか俳優と相互にやり取りをしていった結果、俳優が大きく変わったときはやっぱり面白いし一番の楽しみですかね。


——劇団の公演や外部の公演・研究生の発表会など、演出をやっていてそれぞれ感じる違いはあるのでしょうか?


違いますね。本科・研修科でも違うし、研修科と劇団の公演とかでももちろん違う。すごいざっくり言うと、自分の言っていることがある意味真逆になる部分があるというか。劇団の公演の稽古をやっているときなんかはある意味、「そんな芝居みたいに芝居しないでくれ」って、すごく噛み砕くとそういうことを言っているわけで。研修科とか、本科はもっとそうだけれども、研究所の場合は「いやもうちょっと芝居しようよ」ということを言うわけで。自分の中で逆のことを言っているような気に…。「いやどっちやねん」って自分でも思うけれど。そういうことはよくありますね。


——本科と研修科ではどんなところが違いますか?


研修科の人たちはさすがに舞台の上で立っているということはこういう意識で立ってなきゃいけないとか、どういう風にしたらいいんだろうとか、できるできないは別として、どういうことを意識してなきゃいけないとか、そういう風になりたいとか、問題意識はある程度ある状態ですよね。それに対して本科はもっと色々散らかっている(笑)


一同:(笑い)


初期衝動は強いんですけど「とにかくやりたい!」みたいな。


一同:あー


そんな原石みたいな状態。思い〝は〟分かった、みたいな。


一同:(笑い)


——外部と劇団の公演では何か違いはありますか?


あー、違うなあ。違いますね。外部の方はやっぱり最初から結構アクセル踏んでくるというか、特に私が初めて仕事をする人なんかはやっぱり、当たり前ですけど最初からアクセル踏んで挑んでくださいます。劇団の方は、ひとまず共通言語があるから「自分がこの芝居はこう思考している」っていうある程度ベースのある状態で、順を追って進めていく。役者の方も。最終的にはこうもっていきたい、だから今はこれをやりたいっていうような積み重ねから入るケースが多い感じがする。それはまあ、良し悪しだけど…。やっぱりそこは、外部の公演の方が役者もその時のマックスやこうしたいという結論を早い段階で提示してくれる。「あなたは何がしたくて何ができる人なのか」って情報がお互いゼロの状態からスタートしますからね。だから、早めに手の内だったり目的地だったりお互いぶつけ合います。劇団の場合は、それは良くも悪くも急がないというか。まあ、「急いで、もうちょっと急いで」といったこともなくはないですけど…(笑)


一同:(笑い)


——ダメ出しをするときに、研究生に対してはこう言ったほうが良いかな、とか伝え方に気をつけたり意識されたりすることはありますか?


研究生だからっていう風に意識することはないかな。劇団の公演になったとてそれぞれのキャリアは違うわけですよね。だから準座員で去年まで研究生でしたって人もいれば、自分よりずっと上の人もいるので…。なので研究生だからってことでは言い方を変えるってことはないんだけど、稽古をしていく中で、この人は今こういうことに興味があるとか、こういうことには意外とまだアンテナが向いてないのかな、とかいうことが見えてくるわけじゃないですか。だからその人に合った言い方を考えるっていう感じです。研究生だからっていうよりは、その人の問題意識に引っかかりそうなことや角度から対応する。


—— 61期に向けてのメッセージをお願いします。


自分が舞台上でどういるか、舞台上から何を客席にぶつけるのかっていうことを、この先も芝居を続けていく中で常に抱えてほしいです。自分の思いが変わることもあると思うんですけど、それがなければならないっていう意識を持ち続けてほしいという感じですかね。今回の『三文オペラ』だってそんなにできないと思うんですよね。そんなにできないっていうのは、研修科を卒業したらこれだけの人数が出る芝居って研修科の発表会を終えると意外と少ない。だから良い機会だと思うんですよね。帝国劇場とかでやるのではなくて、アトリエっていう空間の中でこういう風にものを作れる場所っていうのは意外と少ない。だから貴重な時間だなっていう風に思っています。

あとはさっきも話に上がりましたけど夜間部は『お気に召すまま』(61期本科卒業発表会)昼間部は『わが町』(61期本科発表会)っていうそれぞれの節目の演目でお付き合いさせて頂いて、その上で研修科の卒業公演をやれるっていうのは私自身にとってもすごく良い巡り合わせだなと思っております。


一同:ありがとうございました。


インタビュー:浴聖太

写真:木下綾夏

文字起こし:62期研修科メディア係

記事編成:高澤知里

文学座附属演劇研究所 bunken magazine

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