いま、卒業を目前に何を考えるのか。研修科二年生に聞く、それぞれの三年間。#3 磯田美絵、武田知久、ランディ・ジャクソン

みなさんこんにちは。今回の卒業発表会『ロミオとジュリエット』のチケットは即完売となりました。本当にありがとうございます。本番まで残すところあと1週間となり、われわれも更に稽古に熱が入っています!
さて今回は第3回目の2年生インタビューです。今回インタビューに答えていただくのは、磯田美絵、武田知久、ランディ・ジャクソンの3人です。

喜田:みなさんお集まりいただきありがとうございます。さて、それでは早速ですが、この三年間の研究所生活でどのような変化があったと思いますか?


ランディ:僕はもうすぐ30歳でこの研究生の中で一番年上。だから周りの若いエネルギーと一緒に自分のエネルギーを維持するにはどうすればいいかと考えるようになった。例えば身体のケアも、プロとしてどう維持していけるかとか。それから、アメリカにいる頃から含めれば演劇を長い間勉強してきたけれど、改めて基礎の大切さを感じる。ちゃんとそこにいる相手に語りかけ、反応し、その場に生きる大切さをより考えるようになった。

武田:この三年間は、「これくらいでいい」とたかをくくっていた自分の自信を、いい意味で打ち砕いてくれたなと思う。それは演出家にいろいろ言われて、自分でも考えるようになったからかな。つまり俳優をやっていく上では、現状に満足するのではなく、もっといろんなことができた方がいいと思うようになったし、そのことが頭ではなく身をもってしみてきた三年間だったと思う。

磯田:私はこの三年間は、自分のボロが見つかった三年間だった。私が芝居を始めたのは十年くらい前で、その当時はただ楽しいってだけで満足してた。けれどここに入ってから、自分が台本を全然読めていないことに気づいたし、この三年間で声や身体の使い方といった具体的な技術の無さを実感した

(↑インタビュー中の様子。)


喜田:三年間で最も影響を受けた作品または出来事はなんでしょうか?


ランディ:僕が『ペンテコスト』(演出 松本祐子)をやったとき、これは僕にとって本当に想像できないほどの挑戦だった。この芝居で僕は避難民の役をやったのだけれど、実際に僕の父は中米のエルサルバドル共和国からアメリカ合衆国へのまさに避難民だった。だからこの役を通して父のことを改めて考えることになったし、これがきっかけで「芝居における役のキャラクター」というものについてもっと深く考えるようになった。この感情を揺さぶる作品にはもう一度挑戦したいと思う。

磯田:私は研修科一年で『ペンテコスト』をやったとき日本語とアラビア語を喋るパレスチナ人で、難民たちのリーダー的存在という役だった。けどまだ先輩や同期と馴染めていなくて、誰にもこの役の苦悩を相談できずにいた。理解できていない状態で立ってたから、もちろん演出家の祐子さんにはバチボコにされて本当に逃げ出そうかと思った。けれどこの悔しい経験があったからこそ、それ以後「何もできないまま終わりたくない」という強い思いが芽生え、ひとつギアが上がったように感じてる

武田:この時期、磯田がいい意味で5歳くらい老けて、ストイックな女戦士に見えたね。

ランディ:えー、『ペンテコスト』で磯田がそんなに苦労していたとは全然わからなかった!
↑磯田美絵

武田: 僕が『美しきものの伝説』で島村抱月という深い教養を持った自分とはかけ離れた雲の上のような人物をやることになったとき、やばいと思った。だからこれを機に、「芸術」というものについて深く考えるようになったし、そういう意味でこの作品は僕にとってすごく影響あるものだった。


喜田:この三年間で楽しかった思い出をお聞かせください。


ランディ:去年僕は卒公には出なかったけど、どうしても最後に先輩と何かしたいと思って100㎞歩いたこと。僕はケガもしたし、みんな本当に体力的にも精神的にもやばかった。けれど80㎞ほど歩き、海沿いの道に出た時、太陽も海もものすごくキレイで、みんな満身創痍のはずなのに、それでも走ったり歌ったりしてはしゃいでいたのは楽しかったし思い出深い。

武田:僕は研修科にはいって「本科のときよりフレンドリーになった」と言われること。本科に入ったときはまさに石のように心を閉ざしていて、人を信じれなかったけれど、それがこうして少し成長したのかな。
↑武田知久


磯田:私も割と武田のように閉ざしてしまうタイプ。けれど研修科に入って先輩や後輩ができて、そういう不要なプライドをぶち壊してくれる人と出会えたことは良かったと思う。自分のままでいいんだと。


喜田:では、みなさんはこれからどんな役者になりたいと思っていますか?


ランディ:僕はアメリカから日本に来て、この文学座に入って改めて日本語の難しさを感じた。もちろんこのまま日本で俳優を続けたいと思っているけれど、このまま日本で俳優をやるかどうかは将来のことなのでわからない。ただ自分がどこにいようと、誰かに自分の思いを伝えて、人を感動させる俳優になりたい

磯田:私はここに入って、自分の知らないことが多すぎると痛感した。だからあらゆることに興味を持って、勉強を続けていきたい。宇宙とか深海とか、一生かけても知り尽くせないことってあるよなぁと改めて考えてわくわくしてる。新しいものを知ることを恐れずにこれからも生きていきたい。

武田:僕自身、同じ音楽をずっと聴いたり、食べ物も同じものを食べ、同じ映画を見たりというように、同じものを繰り返し消化する人間であるけれど、同じものの中にも常に新たな発見がある。その新たな発見が生まれる瞬間が僕は好きだから、そういうものを普段の日常の中でも見つけていきたいと思う。


喜田:では今回の卒業公演『ロミオとジュリエット』についての意気込みをお願いします。


武田:この先この研究所での公演のように、「よく知ったもの同士」での公演はそう多くないと思う。こういう特殊で貴重な公演が、良い方向に行けばいいなと思う。

磯田:今回の『ロミオとジュリエット』は、どの役も稽古を重ねるたびに、役と役者の個性がどんどん発揮されていっているようにみえる。みんなで作ることを忘れずに、且つその中で私も自分らしく居られたらいいなと思う

ランディ:アメリカの高校生はロミジュリをすごくやるし、僕はこれまで何回もロミジュリを見てきた。このメンバーでしかできないロミジュリを楽しんで新たな発見をしたい。そして自分の役をお客さんのこころにに響かせたい

↑ランディ・ジャクソン

喜田:では最後に私たち後輩に向けてメッセージをお願いします。


ランディ:It is what you make it. つまりこれからの一年、自分たちが作りたい芝居、すべて自分たちの手の中にあるのだから、精一杯頑張って欲しい。自分の一番ジャマになるのは自分自身だから、自分というものをぶっ壊して、なりたい自分になってほしい。一年生は皆すごく力があるし、この一年いい作品ができたのはそのおかげだと思う。

磯田:私ははじめ一年生が入って来た時、そのパワーに圧倒された。いま一年生はいろいろ思うところあって悶々としているはずだと思う。だからその溜まったエネルギーを二年生になって存分に爆発させてほしい。今の元気よさのまま、いい意味でも「二年生らしくない」二年生になってくれればいいなと思います!

武田:我々の悪いところを反面教師にして頑張ってほしい。次は年上の後輩もたくさん入ってくると思うけど、変に「二年生」というプライドは持たずにまずは寛容にいけばいいのではないかな。一年生はみんな個のレベルが非常に高いし、オールマイティに活躍していけると期待しているよ。

喜田:みなさんありがとうございました!

インタビュアー:喜田裕也
文・構成:小谷俊輔


今回お話を伺った56期生のみなさんが出演する

文学座附属演劇研究所研修科

卒業発表会『ロミオとジュリエット』

は、1月25日(金)~27日(日)、文学座アトリエ

にて上演されます。

全ステージ満席となりました。たくさんのご予約ありがとうございました!

なお、当日券の販売予定はございません。ご了承ください。

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