―卒業を前に思うこと。そして、未来―59期インタビュー#3

今回は卒業発表会を間近に控えた研修科2年生(59期)のインタビュー第3弾です。

「オリガ(A)役、山田奈津子」「オリガ(B)役、柏亜由実」

「ヴェルシーニン(B)役、高橋大誠」「演出部(音響)、池田優美」にお話を伺いました。

(前列左から高橋大誠池田優美、後列左から柏亜由実山田奈津子



①『三人姉妹について』

ー『三人姉妹』をやってみてどうですか?


初見のときは難しい印象を受けたけど、稽古をしていくうちに、登場人物の一人ひとりが深いというか、人間性、裏腹みたいなものが沢山あって面白いと思うようになった!


山田

高橋(正徳)さんもおっしゃっていたけど、それこそソリョーヌイとトゥーゼンバッハみたいな、人間性のコントラストが沢山あるよね。


―高橋(大誠)さんはどうですか?


高橋

『三人姉妹』を読んだときの第一印象って大事な気がしていて。登場人物全員が自分の世界を直視できていなくて、不満や不安とかが色々あるなっていうのが第一印象だったの。不満を持ってるからこそみんな自分の言いたいことをバーッて言って収拾つける人が誰もいない。だから、ナターシャとか結構面白い。配役もそこが面白かった。稽古やってても。


登場人物がみんな夢を思い描いてるもんね。だから悲劇的にもなるし、喜劇的にも見えるから、どっちの面も持っていて面白い。


高橋

それをセリフだけで表現しなきゃいけないから、入所して今3年目で、文学座で大事にされていることをフルに使って演じるっていうのができるっていう。しかも文学座の人に教えてもらえるのはすごく価値があるなって。


わかる!こんなに沢山セリフがある作品を文学座でやれて嬉しい。


高橋

セリフが長いから、受け答えだけじゃなくて、論理を全部入れてちゃんと相手に伝えないと浮いちゃうし、一人になってしまうと面白くないっていう。やっぱり自分自身にかけるようなセリフは一人になりがちだけど、相手に伝えた方が面白いっていうのは文学座で教えてもらったところ。

鵜山仁さんがすごく面白いことをおっしゃってたな。例えば「ボーンボーンボーン」っていう時計の音とも会話してって。無機物に対して、全部こう受け答えをするとか、返ってくるのか、返ってこないのか、とか。

だから、(池田)優美ちゃんとも会話できるっていうね。優美ちゃんがボタン押して、それを俺らが感じて。


山田

優美ちゃんと会話、たしかに……!



②演劇、文学座との出会い

―次に、演劇を始められたきっかけと、文学座を選んだ理由を教えていただきたいです。


山田

優美ちゃんは高校でやってたんだっけ?


池田

高校でやってて、中学でもやってた。元々地域のスポーツクラブでエアロビックやってたんだけど、部活動に全員入らなきゃいけない中学だったから、拘束時間的に両立できるのが美術部と演劇部で。絵描けないから、消去法(笑)それで演劇を始めて、初めて音響をやって。地域の7校くらいが集まった合同発表会で地域の会館さんが機材を無料で貸し出してくださって、初めて会館にあるような音響機材に触れて、楽しいってなってからかなぁ。


山田

最初からすごく設備の整った音響の機材を使うこと、なかなかないよね。


池田

中学の合同発表会に講評に来てくださってた先生がいた高校が家から1番近くて、そこに行こう!って。高校も音響をメインにしてたね。本当に人がいなかったから、部長をやりつつ、演出もやって、出たりもしてた(笑)


―そこから文学座っていうのは、自分で探して?


池田

色々見たのよ、専門に行こうとか大学に行こうとか。演劇やるんだったらちゃんと劇団入って、文学座とかいいんじゃないかって顧問の先生に言われて、文学座っていうのを知って、色々調べて、入ってみようって。

(池田優美)


―ありがとうございます。(柏)亜由実さんは、ずっとやってたんですよね。


小学生のときは歌手に憧れてて(笑)

それがきっかけで児童劇団に入って、レッスンを受けた事がお芝居をはじめたきっかけになった。

中学と高校は部活もあったから、お芝居から離れてたけど、大学の進路を考えるときに、もう一回演技を学べる学校に行きたいと思ったの。
いろいろ調べて、日大の芸術学部に演劇学科
があるのを見つけて、そこから本格的に演劇をはじめました!

文学座の研究所は、大学で卒業後の相談をした教授に「文学座か新国立劇場の養成所がおすすめ」と聞いて、試験を受けてみることにしたのがきっかけです。

(柏亜由実)


―ありがとうございます。(高橋)大誠さんと(山田)奈津子さんはいかがでしょうか。


高橋

俺は高校まで画家目指してて、それでコネクションがいろいろ出来たんだけど、その人たちに役者やればってずっと言われてて。それは俺が高校までずっと映画が好きで、自分で撮るっていうこともやってたからだと思うんだけど。絵って人を観察して、目とか顔とかを描くときはその人がなんでその動きをしたのか、なんでいまチラッと動いたんだろうみたいな動きも全部込みで俺は描こうっていう意識でやってたの。それって役者と似てるんじゃないかって勝手に思いはじめて、一回やってみてもいいかなって。

(高橋大誠)


山田

私は、母と兄が映画とかお芝居すごく好きで、2人が夢中になってそういう話してるのをそばで聞いてて「なんでそんなに熱中できるんだろう?」って不思議に思ってたの。で、中学で演劇部があったから、やってみたら母と兄が熱狂している理由がわかるのかなぁと思ったのが始めたきっかけかな。でも、迷った挙句演劇部じゃなくてソフトボール部に入っちゃったんだけど。


高橋

全然違う(笑)


山田

でもソフトボールの才能が絶望的で顧問の先生に怒られまくって。


一同

(笑)


高橋

想像できるわぁ(笑)


山田

もう無理だ!と思って結局中3の春に辞めた。でも中高一貫校だったから、あと4年あるのに何もしないのもなぁと思って、それで最初に迷ってた演劇部に入ったのね。ただ、その時は女子校で女の子だけだったのもあってあんまり芝居の面白さが分からなくて。

大学行って、最初は演劇続けようとは思ってなかったんだけど、たまたま観に行った演劇サークルの新歓公演がすんごい面白くて、そのまま入部して。そこでどんどん芝居の面白さが分かっていって、気づいたら4年間全部演劇に溶かしてました。大学卒業後も芝居続けたいと思ってたんだけど、「芝居は本当に食べていけない」って親にずっと言われてたから、なかなか言い出せなくて……。周りと同じように就活して、でも全然うまくいかなくて悩みに悩んでた時に、文学座の地方公演『何か いけないことを しましたでしょうか?と、いう私たちのハナシ。』(2016年本公演、演出:鵜山仁)を観たの。それがもうめちゃくちゃ良くて、ボロボロに泣いて。それ観て「文学座に行って芝居したい」って強烈に思った。

ただ、資金的な問題とか、食べていけないって言われて躊躇してた部分もあって、一度は社会人を経験した上で決めようと思って一旦就職したんです。

でも3ヶ月ぐらいで、やっぱり私芝居しないと生きていけないと思ったから(笑)


一同

(笑)


山田

その年に文学座を受けて二次までいったんだけど落ちて、一回人生に絶望したけど、やっぱりもう一度受けよう!って59期で受けて、今に至ります。


―なるほど、ありがとうございます。

(山田奈津子)


③3年間の思い出

―次はこの研究所3年間の印象的だったエピソードを伺いたいと思います。3年間どうでしたか?


高橋

楽しかった。


山田

本科は楽しかったなぁ。


高橋

本科楽しいですねぇ


うん!楽しかったねぇ

―1番色々な事が出来る期間ですし、毎日みんなと一緒ですしね。


山田

そうそう、青春してる感は凄いあったね。


研修科に入ったら、すぐコロナ禍になっちゃったから。終わったら早く帰らなきゃいけない雰囲気があって、芝居のこと以外であまりおしゃべりが出来なかったから。

クラス替えして直ぐおしゃべり禁止!みたいな(笑)



―印象的だった発表会はありますか?


山田

私は本科の時にまず一番最初の発表会『わが町』(研究所本科第1回発表会)で坂口さん(坂口芳貞、元研究所所長、2020年にご逝去)と彰男さん(中村彰男)が演出してくださったのが本当に印象に残ってます。坂口さんがいつもニコニコしながら見守ってくださって、ダメだしする時も「ここはもうちょっとこうした方が良いんじゃないかな?」って、絶対役者を否定するような言葉は使わないで、全部受けとめた上でアドバイスしてくださって。自分としてはちょっと物足りないなと思ったこともあって、発表会後の講評の時間に質問したの。「役者に『そうじゃない、もっとこうしろ』みたいに強く言わなかったのはなぜですか?」って。そしたら坂口さんは「役者の神経は繊細に扱ってやらなきゃいけないんだよ」って仰ったの。それが今もずっと心に残ってます。

(2019年度本科第1回発表会『わが町』


坂口さんは、稽古の時から一人一人のそれぞれの個性と良さを引き出してくれる方だったなぁと思う。

その人に合ったやり方を一緒に探してくれるような方で。

打ち上げの時に、今後の不安や悩みを話したら、満面の笑みで「芝居続けられるよ!」って。

本当に一言だけで安心させてくれた。


山田

そうそう、本当にそう!


優しさに溢れてるっていうか。


山田

溢れてた!

私も『わが町』の時にうまく言えないセリフがあってすごく悩んでた時、坂口さんに沢山相談に乗ってもらったなぁ。本番直後、楽屋前の廊下でばったりお会いした時に、すごい満面の笑みで「よかったじゃん!」て言って握手してくださって、それはもう死ぬまで忘れないと思う。


池田

一番最初、入所式の時に「やっぱ演劇人は心の風邪ひきやすいから」って坂口さんがおっしゃってたのがすごく心に残ってて。だからちょっと調子悪いなっていうときに「まぁ風邪ひいてるからしょうがない」って思えるようになったんだよね。やっぱり今でも支えだなぁ。


高橋

俺もやっぱり、坂口さんをよく覚えていて。本科のとき、何を覚えてるかっていうより誰といたかっていうのが俺はでかくて。俺が結構マジにヤバくなっちゃったときに、同期がわざわざ家に来てお金ないのに「鍋やろうや」って言ってくれたりして、そういう本当に真摯になって相手の話聞いてくれる奴と会ったのがすごくでかかったし、それは文学座だからだとも思うし。今でも親友って言える仲で、そいつと一緒にやってきたのがすごい楽しかったから、それはすごい覚えてる。坂口さんもそうだし、って感じですかね、未だに坂口さん思い出すとちょっと…なんかね…

(2019年度本科第1回発表会『わが町』)


―お会いしたかったです。


高橋

60期夜間部の『わが町』は本当にすごい俺、(胸に)きちゃって。坂口さんがやってたのとすごく似てて。


―僕ら(本科60期夜間部)の演出家は彰男さんだったので、彰男さんが坂口さんの想いを汲み取ってくださってて。


すごくわかる。讃美歌聴いて泣きそうになった。


山田

私は開幕で秒で泣いた。


一同

(笑)


本当に人に恵まれたな。講師の方たちもそうだし、同期もそうだし。


山田

魅力的な人たちが本当に沢山集まってる場所だなって思う。勝也さん(小林勝也)もそうだし、路恵さん(寺田路恵)もそうだし、ベテランの方々の授業を受けられるのも本当にありがたいよね。


―ありがとうございます。


④これからについて

―続いて、今後の目標や将来についてお話を伺いたいです。大誠さんは演劇を続けるかはまだわからないと?


高橋

まぁただ俺も誰と会うかだろうし、それで自分が作られていったし。相手が何をしたいのかを受けいれて、その上で自分が何をしたいか。でもここは自分を突き通さなきゃいけないなっていうところは大事にしたいし、坂口さんも大事にしたいし、一緒にいた親友のことも大事にしたいし。そういうのを忘れない人とだったら、役者をやってても面白いんじゃないかなって。技術とか関係なく。それを大事にしていきたいな。


私は、喜劇的な事が好きだなと思っていて。

人を笑わせるって1番難しいと思うし(笑)、真剣に取り組むからこそ空回っちゃったり、見ていてクスッと笑っちゃうような滑稽な姿を表現出来る役者になりたい。

それが出来る役者さんは、どんなシーンも魅力的に表現できる気がして。

真剣な姿って、見ていてすごく感動するから。

演じていても、"本当"を貫ける役者になりたいなって思います。


池田

うーんなんだろな、繊細なことが操れる音響さんにはなりたいとは思うかな。『痕跡』(2021年度第3回研修科発表会)を俯瞰して観た時に原島さんの作る音を初めて意識して聴いて、繊細だなって思って。『ガラスの動物園』(2019年本公演、演出:高橋正徳)でも原島さんの音を聴いてはいたんだけど、未熟すぎて聴けてなかったっていうのがあって。

最近思うのは、技術面を考えすぎれば考えすぎるほど、繊細な部分が疎かだったなって思うことが多々あったから、技術面と繊細で素直な音を両立できるようになりたい。あとはいろんな現場を見たいかな。旅公演に行って、研修科は温かすぎる!ってことを痛感したから(笑)同世代と一緒にできるあと数ヶ月は貴重だなって。


―ありがとうございます。では、奈津子さんお願いします。


山田

分不相応かもしれないけど、『ガラスの動物園』のアマンダをやりたいというのが一つの目標です。本科の授業でアマンダを読ませてもらった時、自分の底の浅さ、中身のスカスカ加減を思い知って。文学座の役者さん、それこそ(寺田)路恵さんを見てると、生き様というか、積み重ねてこられたものが全部お芝居に表れてるなってすごく感じるから、自分もこれから色んな人生経験を積んで、アマンダができるような魅力的な役者になりたいなと思います。それまで続けられるかどうかも分からないけど、細く長く、たとえ亀の歩みでも成長し続けていきたいです。

あと、私も中学生くらいから声優さんにずっと憧れてたので、アニメのアテレコをやってみたいです!


―ありがとうございます。


⑤60期へのメッセージ

―最後に、我々60期に何かメッセージをいただけたらなと思います。


高橋

俺はたくさんあるぞ〜。


一同

(笑)


高橋

俺はもう、ちゃんと作ってきたから。


―じゃあ、最後に(笑)では、何か…(他の人に)


高橋

でも明るいよね、60期。


池田

うん。


うん、すごく明るい!


山田

明るいしハキハキしてるし仕事できるし、非の打ち所がない。ただ、ちょっと心のガードが堅いのかなっていう印象もあるかな。お互いもうちょっと心オープンにして踏み込んでって、裸で殴り合うみたいな濃いコミュニケーションができたら、今以上にすごい化学反応が起きて爆発的に面白くなるんじゃなかろうかと、個人的には思っているので。まぁ同期だし一回喧嘩したりしてみてもいいんじゃないかな。「お前の芝居はちげぇよ!」みたいな(笑)


―たしかに喧嘩はあんまりしてないですね。


山田

やっぱり60期はコロナ禍で入所して授業もずっとその中でやってきた人たちだから、一個覚悟決まってる感じはすごくあるよね。

すごい素敵なところいっぱいあると思います。


―ありがとうございます!


池田

素直な子が多い。そのままで育ってほしいし。あとはみんなで、それこそ裸で殴り合って、コミュニケーションをとればとるほど良いものがきっと出来上がっていく思うので、下に61期が入ってきて先輩になるわけですから、頑張っていただいて(笑)もうあと一年しか同世代でできるっていう機会はないわけですから。


―ありがとうございます。


高橋

第一印象すごく明るいなっていうのを俺は思って、やっぱり60期が作る明るさが、こう、ひとつある気がするの。ひとりひとりというよりはみんなで作ってきたものがあるんだなみたいな。で、一緒に1年やる以上こっちも影響受けるし。そういうところが一緒にやれて良かったなって思うところの一つでもある。


もらったものがたくさんあるよね!


高橋

そう。


山田

うんうん。


高橋

あとひとりひとりの役者にやりたい役者像があるんだろなっていうのがすごく印象強かった。だからこそ自立してるし。みんな作品に全力で取り組んでいて、印象に残ってるところがたくさんあるから、その感想を俺がひとりひとりにはっきり言えばよかったなってすごく思っていて、それがちょっと心残り。

あと、坂口(芳貞)さんが仰ってたすごく面白いことがあって、これ俺が聞いて読んで思ったことだからちょっと違うんだけど。坂口さんが仰ってたのが、私たちはお母さんのお腹の中で細胞1つから生まれて、2個になって3個になってどんどん大きくなっていって、お母さんのお腹の中で胎児になると。お母さんのお腹の中も体験してるし、産まれるという奇跡も体験してるし、それを私たちは感じられるはずなんだから、もっと自分を感じられるはずで、自分が感じられてないところはまだまだいっぱいあるんだろうって。

サン=テグジュペリの『星の王子様』のさ、「人生の目標があるとしたら、自分になることだ」っていうこともよく仰ってたんだけど。自分をもっと感じられるところもあるし、感じるためのきっかけが相手であったりもするから。さっきなっちゃん(山田奈津子)が言ってた喧嘩もそうだし、やっぱり全力で真剣にやることで感じられることが多いんじゃないかなって思って。それはこれから大事にしてください!って言えることかな。

(60期は)坂口さんに会えなかったからこうやって言えたらいいなって思ったんだけど。まあ、こっちもお世話になりまして…


―お世話になりました。これからもお世話になりますけど(笑)


山田

もうお別れみたいな(笑)


―まだあります(笑)


池田

最後自分たちの卒公お世話になります!


山田

お世話になります!よろしくお願いします!


―頑張りましょう!ありがとうございました。



インタビュー:稲岡良純中川涼香

写真:今野美彩貴

文字起こし:60期研修科

記事編成:池田千歌

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