1.小林勝也にとってこの作品とは
喜田:勝也さんが研修科で『愚者には見えないラ・マンチャの王様の裸』やるのは4回目ですね。今年もう一度ラ・マンチャをやろうと思った理由はなんですか。
小林:たぶんね、横内くんのこの作品は世界で誰もやってないと思うんだよ。
一度、「勝也さんよく何回もやりますね」って言われたんだけど「うん、面白いからやってるんだよ」って言ったんだ。
あとは、そうだねえ、分かりやすいっていうのと、台詞劇なんだけど台詞劇よりももっといろんな面白いものが投入できるっていうようなことかな。
喜田:今回の作品について、勝也さんとしてはどこがみどころだと思いますか。
小林:ああ、俺は台詞が好きなんだ。
扉座の芝居の中でもけっこう大人な芝居で、横内くんの中では一番傑作だなって思ってる。何本か横内くんの作品を見たけどね。
スペクタクルが好きなんだよね。
喜田:スペクタクルが好き。
小林:うん。難しい、わからないところがないってことだ。
喜田:なるほど。次に、2018年の社会とこの劇のテーマがどういった関連を持つのかということについてなんですが。
小林:いやもう根元的なものだと思うよ。題材が古いと思う?
喜田:いや、今見ても古いとは思わないですね。資本主義社会への問題提起というような。
小林:古くないよな。
喜田:はい。あと、それぞれの役、王様、道化などの役に対する思い入れなどあったりするんでしょうか。
小林:あんまりないな、君らがつくればいい。だから例えば王様と道化の二人がどういう関係になるかは彼らがどう作るかっていうのを見るだけなんだ。
2.研修科生との化学反応
喜田:なるほど、ありがとうございます。では今まで3回やってきて、90年代の時にやったときと今やる場合では作品に対する考え方に変化はありますか。
小林:君らのちょっと前に研修科でやった時は、ちょっといい意味でわがままなのが集まってて、それで、自分の個性を押し出すようにやれって言ったんだけど、今回はそういう作り方はしなかった。
俺もやってるうちに人間が変わってるから、なにか新しいものを発見できるんじゃないかなと思ってやってるんだ。
例えば今までは装置も別になんにも作らなかったけど、今回は君らの期に美術を目指す人(演出部)がいたりするから、考えてみなさいって言ってるんだよ。
まあ、その都度の個性で、どうにでも変わるんじゃないかってことかな。あとは、今回はみんな頑張るだろうという期待のもとだ。
喜田:その期にいる人たちを見て役割を新しく割り振るということですね。
小林:そうねえ、あと2週間あるからわかんないけど今日も君らのやってることをみて刺激されてるよ。(編集部注:このインタビューは本番2週間前に実施しました。)
これは面白いんじゃないかっていうのは君らが今までやってることを見てから気が付くんだ。君らの中から発掘するっていうか。
毎年俺はどんどん年をとっていくけど、研究所と研修科は新しい人が入ってくる。
最初に俺がやったときの人はもう50になるんじゃないかな。
そのころはそのまま居酒屋に流れ込んで喧嘩したこともあったな(笑い)
3.裸舞台へのこだわり
喜田:勝也さんが演出される場合こういう比較的作り込まない舞台が多いですよね。
小林: 僕はこういう裸舞台が好きだからね。
喜田:それはどうしてなんですか。
小林:『わが町』のような形式で芝居を作ればいいんだっていうことが一つある。
君らは『わが町』(編集部注:文学座附属演劇研究所本科で毎年上演するソーントン・ワイルダーの作品)を経験してるからこういう無対象でも考えやすいだろということ。
喜田:ああ、そういうことなんですね、『わが町』は研究所のみんなが経験してるから、そこの共有をベースにしている。
小林:あとはみんながどれぐらいこの裸舞台で工夫できるかということかな。
4.かっぱらいの人生
喜田:今回初めてやったこともあるということですが、パントマイミストのすがぽんさんと一緒にプレ稽古をやったことも含まれますか。
小林:そうだね、せっかく君らがすがぽんの授業を受けてるから、身体表現っていうものをみんなで追及してもいいかなって思った。
俺はボリショイバレエとかクラシックなバレエを観て感動するし、歌劇『トスカ』を観れば凄まじい歌唱力に感動するし、W杯の決勝をみれば表彰式のあの狂乱も面白いと思う。
刺激を受けたものを取り入れたいんだ。もうずっと、かっぱらいの人生だね。
喜田:それでダンスなどからも取り入れたいということなんですね。
小林:そう。だから本当やってみなきゃわからん。さんざんやって捨てないと。でもそれは無駄ではないんだ。それがまあ、面白いっていうか。
喜田:勝也さんも予想し得ない何かが生まれるのを楽しみにしてる部分があって、だからこそ色々やってみてほしいっていうことなんですね。
勝也:うん。本当もうやってみないとわからない。
舞台装置なんかは演出部の子たちのアイディアに期待してるね。君らの期はこれだけ演出部の人材に恵まれてるから、よしとしよう。
5.稽古へのこだわり
喜田:稽古期間が約二か月と長めでしたが、勝也さんの稽古の仕方へのこだわりなどありますか。
小林:なんだろう、段取り稽古のときに、やれこのきっかけがどうのとか、なんかそういうのがもったいないか全部すべて稽古中に作っちゃおうっていうのはあるね。
何度も通しをやって、段取りの時点で本番通りにしたい。その方が君らにとってステージ数が増えるからいいだろうなっていう発想なだけなんだけどな。へっへっ(笑い)
喜田:そうですね、しっかり通す形で回数できるのはいいですね。
小林:あとは役者をたくさん使うこと。
清水邦夫の『雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた』とか、今までやったほとんどの作品で三十人近く出してるし、それでも人が足りなくなる。そういう作り方をしてる。
それは文学座のアトリエ公演とか普通の稽古では絶対できない。
まず一般的な芝居だと「こんなに人が出たらステージギャラだけで予算が飛びますからもっと予算を少なくしてください。」って言われるね。それがないから俺は面白い。
喜田:一度にたくさん役者を出せるっていうのが研修科で演出する魅力なんですね。
小林:だから若い頃演出家を目指したりしたけど、今はそういう欲は全くないね。
研修科でやってるのが一番楽しい。
喜田:ああ、そうなんですね。
小林:だって一番自分の好きなことができる。
喜田:(笑い)
小林:好きなことができる。だってこの芝居裏チームがいなかったらつまんない芝居になるよ。
喜田:十人だけだと確かに寂しい感じがしますね。
小林:あと俺は最初から音響を使う癖があるけど、音が決まんないとそのシーンのイメージが決まらないから、まず音響のプランナーと相談して音を決める。
あとはもう工夫ね。数年前に段ボールで作りゃいいんだってことを発見してね、段ボールでやったんだ。
去年の本科の『わが町』も最初段ボールで全部作っただろ。芝刈機とか牛とか。
喜田:作りましたね、芝刈機とかベッシーとか。
阿部:ベッシー作ったんですか。
喜田:実物大を作ったんですよ。
外園:実物大?
喜田:だから稽古序盤はダンボールで作ったでかいベッシーをハウイが連れてくるっていう。
外園:ハッハッハ
阿部:ハッハ
6.サッカーと演劇
小林:全く同じだね。
距離が開いたら、 話題というボールが渡らない距離だなと思ったり。逆に近すぎちゃうと何もできなくなる。
喜田:違うスペースに展開してくれということですね。
小林:だから昔から僕は「動くなー」って言葉と「動けー」って言葉しか使ってない。
一同:(笑い)
小林:このときに誰を見てるのか、何を聞いてて、見てるのか。
だってサッカーの試合ってボールを見失うことは絶対ないよね、それと同じように舞台なら話題を見失うことはないはず。
喜田:そうですね、試合中ボールを見失っていい瞬間はほぼないですね。
小林:要するに自分ともう一人の自分が上から見てないと、つまりコントロールできないってことだよね。常に自分がやってることとを自分が客観的に見てるっていう。
喜田:サッカー選手でもよく言いますよね。
小林:サッカー選手でもそういうことができるのは、中田。
伝説だけど、中田は自分たちの11人と相手の11人が常にコートのどこにいるかいつもわかってて、そっちをみないでパッてパスを出すことができた。
常に客観的に、自分だけじゃなくて全体が見えてるっていう。
あと、サッカーの世界では戦術がさまざまに変化するけど、演劇の考え方ってすっごく固定的なんだよ。
例えば本読みから始まって本読みは1週間やらなきゃいけないとか、果たしてそうなんだろうかと。
喜田:サッカーはどんどん戦術変わっていきますもんね。
↑インタビュアーの研修科1年・喜田裕也。小学校から高3までサッカーをやっていました。
小林:状況判断もその一つだ。
演劇で言えば、やる事は台本に書いてあるし、規定の約束事で稽古してるけど、何か起こると対応できなくなるんじゃ意味がない。
いかにその瞬間瞬間自分はこうしたらいいんじゃないかっていう判断が大事。
喜田:スポーツは色々な部分が連動していますね。
小林:そう、連動してやらなきゃいけないことをやってる。
それからスポーツ医学なんてのも発達してるよね。フィジカルトレーナーもいればメンタルトレーナーもいる。自分が今日やらなきゃいけない練習を文字化して脳を活性化させようとかいう話があったり。
演劇はね、そういう分野ではとっても遅れてる。科学的じゃない。一瞬の判断をどうするかっていうのは同じなのにね。
喜田:演劇は芸術の分野に入るから、科学的な手法が入り込みづらいのかもしれませんね。
小林:かもしれない。
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